拳を固めてサワディカップ9-2

タイの薬は本当によく効く。医療費が高額なため、殆どの薬は処方箋不要で、コンビニや薬局で簡単に手に入る。

10年ほど前に、選手を連れてチュワタナジムに2週間の合宿に行ったことがある。タイボクシング界の大物、アモーン氏が主宰する名門ジムだ。後にOPBF(東洋太平洋連盟)スーパーフェザー級チャンピオンになり、WBA(世界ボクシング協会)スーパーフェザー級チャンピオン、内山高志(ワタナベ)にも挑戦したことのある天才児、ジョムトーン・チュワタナとの連日のスパーリングで大いに勉強になった。

このチュワタナジム、リングの脇に、大きな寸胴が置いてあり、中には巨大な氷でキンキンに冷やされた水が大量に入っていて、インターバルの時に、各々、大きなカップで水をすくい、頭から浴びたり、うがいをしたりする。

トレーニング中、暑さでヘトヘトの状態で、うがいをしようと思い、口に含んだ瞬間、あまりの冷たさ、あまりの心地よさに思わず飲み干してしまった。

案の定、1時間後、水あたりしてしまい、ジム2階の合宿所のトイレとベッドをひたすら往復する事態に。トレーナーのチャムナンが笑いながら、コンビニで下痢止め薬を買ってきてくれた。緑色した大きな錠剤を飲んで10分もすると、すっかり落ち着いたが、ここでは書けないような副作用もあった。胃腸が弱い日本人には日本独自の薬のルールがあるのだろう。

1月13日、エカマイに行く。

ヘビースモーカーでカフェイン中毒のため、このところ、歯のくすみが気になっていた。日本では何度も何度も通わないといけない歯のホワイトニング、薬剤が強力なここ、タイなら一回で劇的に効果が出る気がして、朝イチで予約。念入りに歯磨きをして、昼過ぎにホテルを出発。予約時間の13:00ジャスト、日本人が経営する歯科医院に着いた。

薬剤を歯全面に塗られ、大きなマウスピースのような発光体を咥え、真っ暗な中45分、全身をベルトで椅子に固定される。ものの5分で熟睡したため、気がつくと治療は終わっていた。

治療後のカウンセリングで先生の話を聞き、治療前・治療後の写真を見せられる。

歯の白さには40段階ほどあるらしく、30段階が今回の治療で24段階になりましたと言われたが、肉眼で見てもどこがどう変わったのかは全くわからなかった。3000B(9000円)程度で真っ白な歯を手に入れようというのが甘かったようだ。

 

ホテルに戻り、プールでひと泳ぎしていると、沖縄のS会長から電話。4月に行われる試合のマッチメイクの相談だった。九州、関西方面の会長、マネージャーたちに打診して連絡待ち。海外にいながらにして仕事ができる、いい時代になったと思う。ネットの普及に感謝。

 

15:30、タクシーを呼び、チャッチャイのジムへ向かう。何やら相談があるというので、指導が終わったチャッチャイとラッサワイ市場のフードコートでコーラを飲む。

「今いるチャンピオンや世界ランカーたちは、ペッティンディ・プロモーションの選手たちで、自分の後輩にあたる。練習場としてうちのジムに来ているし、指導もしているが、自分がマネージメントしているわけではない。今後は自前のチャンピオンも作ってみたい。各方面で力を貸してくれないか」

ということだった。

興味深い夢のある話だったが、どうせやるなら、しっかりと腰を据えてかからないと、トラブルの元になるし、安請け合いでは、振り回される選手がかわいそうだ。色々調べさせてもらい、その結果次第で返事をさせて欲しい。やるとなれば、できることは全力で応援するよ、と言うと、

「良い返事を待っている。オレは本気だ。信じて欲しい」

と現役時代を彷彿させる鋭い目で、右手を差し出す。

固い握手をしてジムを後にした。

 

夕食をとりにシーロムへ。スリウォン通りの屋台でシンハービールとカオカムー(豚煮込のぶっかけ飯)を注文。あいかわらず美味しかった。近所で働いているという相席のおじさんと話し込み、ついついビールが進みすぎた。

トゥクトゥクでも拾おうかと思ったが、夜風が気持ちよかったので、ゴーゴーバーや連れ出しスナックの呼び込みを冷やかしながら、1時間ほど散歩。パッポン通りやタニヤ通りの活気は相変わらずだった。250B(750円)のタイマッサージで全身リラックスしてから、ホテルに戻り、コンビニで買ってきたセーンソー・ウイスキーでハイボール。

ホテル14階から見下ろすラチャテウィーの夜景はとても綺麗だったが、握手をした時のチャッチャイの自信に満ち溢れたあの目が、どういうわけか、頭から離れない。

 

チャッチャイとああいう約束をした以上、今年は毎月タイに来ることになるだろう。どういう結末になるかはわからないが、最善を目指し、前を向いてがんばろう。