拳を固めてサワディカップ19-3

2月15日、8:00起床。深夜から降り続いた雨も上がり、気持ちがいい朝だ。

少し肌寒い。長袖のシャツを着て散歩に出かけよう。ラチャダビセーク通りを南に歩く。この数日酒を控えていたせいか、体調も良く歩いていても疲れを感じない。少し足を延ばしてフワイクワンの中華街に朝粥を食べに行こう。

 

フワイクワン市場近くの中華定食屋でパクチーがたっぷり入った朝粥50B(150円)を注文。びっくりするほどおいしかった。食べ終わって店主のおばちゃんと話し込んでいると、昨夜の暴風雨で屋外トイレのドアが壊れてしまったらしく、これから旦那さんが修理をするからドアを支えるのを手伝ってくれないかと頼まれる。

予定もないのでOKして旦那さんと二人で修理にとりかかる。旦那さんが蝶番にねじを打ち込みやすいようにドアを支えているのだが、このドアがまた巨大で、水をたっぷり含んでしまっているせいかやたらと重い。ふらつきながらも10分ほどで何とか修理完了。

 

お礼にとチャン・ビールをごちそうになっていると、

「隣でタイ・マッサージも経営しているから、寄っていかない?もちろんお金はいらないわよ」

おばちゃんのお言葉に甘えて、1時間しっかりほぐしてもらった。なんだか逆に得した気分だ。

ホテルに戻り、プールでひと泳ぎ。昨夜の大雨が嘘のように晴れ渡り、ギラギラと太陽が照り付けてくる。ビールとマッサージでリラックスしたせいか、プールサイドのリクライニングで2時間も寝入ってしまった。

今日は日曜日。予定もないから、チャトゥチャック市場で買い物でもしようかと支度をしていると、友人のNさんとIさんから電話。

「いつもボクシングの指導をしてくれるお礼に、これからカートのサーキットに案内しますよ。遊びに行きましょう。これからホテルに迎えに行きます」とのこと。

1時間ほどで到着した二人とタクシーに乗り込みインパクトスピードパークへ。待ち時間もなくすぐにコースへ出る。

カートは電動で時速は40km/hほどだが、車高が低いせいで実際の体感速度は80km/hくらいに感じる。1周1kmくらいのコースだが、S字カーブ、ヘアピンカーブ、バックストレートなど、なかなか充実したテクニカルなコースだ。

序盤はマシンコントロールがおぼつかず、恐る恐る走っていたが、3周目からはだいぶ慣れてきたので、同じく初心者のNさんに体当たりしてクラッシュさせたりコース取りをいろいろ試してタイムアップしたりとだいぶ自由に操れるようになってきた。

 

ふと思い出した。Iさんは国際ランセンス所持の現役バイクレーサーだった。Iさんの後ろにピタリとつけ、食い下がってみようとするのだが、同じマシンなのにどうやっても引き離されてしまう。あっという間に見えなくなった。再び後方から現れたIさんに今度こそついていこうとコースやラインの奪い合いを仕掛けるが難なくかわされて走り去られてしまう。

 

8週ほど回ったところで時間切れ終了。同じ条件なのに、何度も追いつかれ抜き去られていくのは屈辱だったが、Nさんに体当たりして何度もクラッシュさせたのでいくらかスッキリした。

みんなでなかよく表彰台で記念撮影。本当に楽しかった。今後ハマりそうな気がする。これでたったの700B(2100円)。タイの物価は本当に安い。

 

「ケンさん、ボクシングと一緒ですよ。走りながら次の展開を常に読みつつ次の段取りを同時にやる。思いつきの行動ではタイムは伸びないんですよ。ま、キャリアですかね」

 

得意気に話すIさんが憎らしかった。

すっかり上機嫌のIさん、

「これからチャッチャイさんのジムに連れて行ってくださいよ。ケンさんをやっつけて気分がいいからボクシングでもうひと汗流したいな」

タクシーを拾い、サーサクンジムへ。

ヘトヘトになっている私とNさんを尻目に、臨時トレーナーにやってきた元WBC(世界ボクシング評議会)フライ級チャンピオン、ポンサクレック・ウォンジョンカムの構えるミットに延々8ラウンズ、楽しそうにパンチを打ち込むIさん。55歳の無尽蔵の体力にあきれるしかなかった。

 

ホテルに戻り、少し休憩した後、階下のWHAT’S UP DOGで乾杯。お互いの近況を話しながらティナ特製のT-ボーンステーキをみんなで頬張った。タイ人と過ごすのももちろん楽しいが、言葉の壁がない日本人との会食はやはりリラックスできて楽しい。とりとめのない話を繰り返し、気が付くともう23:00。お開きにしようかというところで、はしご酒の鬼、Nさんが、

「カートにボクシング。二人の得意分野ばかりであんまりおもしろくなかったね。これからは俺の時間だ。夜の街に繰り出そう」

わかりました。しっかりつきあいますよ。

パッポンのネオン街をさっそうと歩くNさんの後ろ姿が誇らしげだった。

 

長い夜になりそうだ。