拳を固めてサワディカップ21-3
8月26日、8:30起床。プールで1時間みっちり泳ぐ。今日もいい天気になりそうだ。
ホテル近くの屋台に朝食を摂りに行く。初めて来た屋台だったが、50B(180円)のガパオライスがおいしかった。コロナ禍以前に来た時よりも物価が若干上がっている。強烈な円安も手伝って出費が何かとかさみそうだ。これからは財布の紐を引き締めてかかろうと思う。
朝起きた時から全身の筋肉痛がひどい。無理もないか、この2年半、まともに運動をしていなかったし、体重もすっかり増えてしまっている。ジムまで少し時間があるからシーロムのサウナに行って少しでも体を絞っておこう。
13:00行きつけの有馬温泉に到着。客は誰もおらず、貸し切り状態。暇なのか、従業員のオニーチャンたちが召使いのように二人がかりで体を洗ってくれた。
サウナに入り、2時間みっちり汗をかくと体重が2kg落ちた。オニーチャンが持ってきてくれたレモンソーダが体に染みわたるようにうまい。すっかりリフレッシュして店の前のベンチでタバコを吸っていると青島氏から電話。
「今日の予定はどうですか?大志が勤めているラジャダムヌン・スタジアムに招待しますよ。一緒にムエタイ観戦に行きましょう」
「了解しました。これからチャッチャイのジムに行って練習後に現地に向かいます」
バタバタと準備をして、タクシーを拾い、ラムルッカへ向かう。後で考えたらこれが失敗だった。
ラチャダビセーク通りの渋滞がひどい。15:00にシーロムを出て2時間近くかかって、まだラップラオあたり。地図アプリを見ると、ジムに到着するころには19:00になってしまう。ふだんなら1時間余りでつくはずなのに、これではみんなの練習時間に間に合わない。シーロムみたいな中心部からタクシーに乗るべきじゃなかった。モーチットあたりまで電車で行き、そこからタクシーに乗り換えるべきだった。久しぶりのバンコクだったので、タイ名物の大渋滞をすっかり舐めていた。
青島氏との待ち合わせは20:00。このままラムルッカに行ってしまうと、約束の時間にはどう考えても間に合わない。タクシーの運転手に事情を話して、プラディパッドへの行き先変更をお願いした。長距離の運賃を当てにしていた運転手はがっかりしていたが、チップを多めにあげるからと言うと、ニッコリ笑って了承してくれた。
チャッチャイに連絡して事情を説明。ずいぶん無謀な乗り方をしたねと、チャッチャイは大笑いしていた。次は必ずジムに行ってしっかり指導するから今日はサボります。反省。
青島氏と待ち合わせてタクシーに同乗して、ラジャダムヌン・スタジアムへ。さすが歴史あるスタジアム。重厚な造りで風格を感じさせる。チケットカウンターに行くと、大志君が用意してくれていた関係者パスを、受付嬢が渡してくれた。
ロビーのベンチでくつろいでいると、打ち合わせに駆けずり回っている大志君とばったり。久しぶりに会う大志君はさらに立派になっていた。若い人がキビキビと仕事している姿は本当に美しい。
中に入ってまたびっくり。すっかりきれいに改装されていて、実にきらびやかなライトアップや迫力ある音響。闘牛場のような殺伐とした以前のラジャダムヌン・スタジアムはすっかり様変わりしていた。
ファラン(白人)選手が多数出場しているのにも驚いた。ほとんどの試合がタイ人対ファランばかりで、ずいぶん国際色豊かなカード作りになっていた。
ノックアウト続出の派手な試合をすっかり堪能していると時間はもう23:00。
タクシーを拾い、プラディパッド通りの屋台村、キャンピング・グラウンドで青島氏と夕食。ジムに行かなかったから体調も良く、食事もそこそこにボクシング談義に花が咲き、気が付くと青島氏と二人でウイスキーを二本も空けてしまった。
8月27日、二日酔いを覚ますため、プールに行き、15mを20本泳ぐ。なかなかキツかったが、泳ぎ終わるころにはお酒も抜けてスッキリ回復。日光浴をしていると友人の小田さんから電話。
「今日、バザール・ホテルでナコンルアン・プロモーションの興行があります。一緒に観に行きましょう」
昨日と同じ屋台で40B(150円)のクイッティアオ(タイラーメン)で軽い朝食を済ませ、部屋に戻ってギンギンに冷えたチャン・ビールを飲んでから昼寝。13:30に支度をしてタクシーを手配する。
20分ほどでバザールホテルに到着。ロビーで待っていてくれた小田さんと再会の握手。相変わらずマラソンに精を出しているらしく、引き締まった体とさわやかな笑顔はコロナ前そのままだった。
久しぶりに見るナコンルアンの興行は、相変わらずタイ人対フィリピン人のカードが多く、相性がいいのか、どれもキビキビとしたいい試合が続いた。今回出場しているフィリピン人たちはうまいボクシングをする選手が多く、レベルアップしている感があった。それもそのはず、セコンドに目をやると、そこには元WBAミニマム級チャンピオン、ジョマ・ガンボア(比)がいた。彼は現在タイに居を移し、タイ在住のフィリピン人ボクサーを毎日指導しているのだという。
試合後廊下でばったり出くわしたガンボアと握手。
「いい選手を持っているね」そう言うと、
「指導はとても楽しいです。以前、日本でトレーナーをしているときには、チャンピオンを作れなかったけれど、やはり、フィリピン人同士のほうが言葉の壁もないし、コミュニケーションがとりやすいです。これからフィリピン人のいいボクサーをたくさん育てるから、試合の機会を作ってください」
全ての試合が終わり、ロビーのソファでのんびりしていると、小田さんが一人のずんぐりしたタイ人を紹介してくれた。ニヤニヤしているそのタイ人に立ち上がって挨拶をしようとしてすぐに気が付いた。
元WBCバンタム級、スーパーフェザー級チャンピオン、シリモンコン・シンマナサックだった。
1997年、日本で辰吉丈一郎(大阪帝拳)と激闘を演じたあのチャンピオンが目の前にいる。
「FACEBOOKでいつもケンさんの投稿を見ていますよ。お会いできるのを楽しみにしていました。僕の実家はボクシングジムを経営していて、プロモーションもやっています。いつか一緒に仕事をしたいと思っています」
余りある光栄。美しい奥様とやんちゃなかわいい坊ちゃんと記念撮影。
聞けば44歳になった今でも現役でリングに上がっており、ボクシングだけにとどまらず、BKFCなどのベア・ナックルファイトにも出場してチャンピオンになっているという。
「世界王者だったのは昔の話。子供のためにまだまだ稼がないといけないのでこれからも戦い続けます。日本で僕の試合を組んでください。どこでも行きますよ」
衰えぬファイティングスピリットに驚いた。
すばらしい出会いでした。小田さん、ありがとうございます。