ベストパンチ7
1994年9月17日 米国 ネバダ州
IBFウェルター級タイトルマッチ
チャンピオン フェリックス・トリニダード(プエルトリコ)KO4R 挑戦者 ヨリ・ボーイ・カンパス(メキシコ)
竹がしなるような天性のバネを持ち、安定感抜群の技巧派王者、モーリス・ブロッカー(米国)を戦慄的なKOで仕留め、一躍、中量級のスターダムにのし上がったトリニダードの試金石となる一戦。
23戦全勝(19KO)のトリニダードに相対する挑戦者は56戦全勝(51KO)の強打者カンパス。伝説の英雄、フリオ・セサール・チャベスの後継者としてボクシング王国メキシコが満を持して送り出したスーパーホープだ。
ロングレンジからの切れのあるソリッドパンチを繰り出すトリニダードに対し、しつこい連打で相手を根負けさせる伝統的なメキシカンスタイルのカンパス。その強打とは裏腹に、打たれもろさをつかれ、度々序盤にダウンを喫する王者に挑戦者のハードパンチが炸裂する予想も高く、試合前のオッズは1-1のイーブンだった。
開始早々、王者のカミソリのようなストレートパンチをかいくぐり、カンパスは自信満々に肉薄していく。ディフェンスとは「かわす」のではなく「芯を外す」というメキシコ流防御の奥義をこれでもかと披露しながら、センチ単位で自身の強打が当たる距離まで緻密に照準を合わせていく。
1ラウンドの攻防でカンパスの突進を捌ききれないと悟ったトリニダードは、自慢のパンチで接近戦の打ち合いに付き合うことになる。
しなりの効いたトリニダードの強打は必然的にパンチを打ち出す際の「ため」を必要とする。パンチに体重を乗せてドライブをかけるのに、セットアップのためのほんの少しの時間と距離を要する。片やカンパスの強打はメキシカン特有の「当たってからねじ込む」王者とはまったく逆の打ち込み方。
第2ラウンド。そのカンパスのコンパクトなベストパンチが炸裂した。
日本の技巧派王者レパード玉熊は「20cmあれば人は倒れる」とショートパンチの極意について語っていたが、カンパスはこれをも上回るショートパンチの完成型を見せてくれた。
接近戦で頭を付け合った両者。トリニダードが自慢の強打を打ち込もうとほんの一瞬、「ため」を作った瞬間、カンパスのコンパクトな左フックがトリニダードのアゴに叩き込まれた。
リングサイドのプロモーター、ドン・キングが「6インチ(15cm)の左フックだ!」と誇らしげに叫んだ。
腰が抜けるようにキャンバスに沈んだトリニダードだったが、幸いダメージは浅く、続く4ラウンド、手数で圧倒し、タフガイ、カンパスを仕留めた。
この一戦を糧に、トリニダードは序盤のポカ倒れもなくなり、スーパースター、オスカー・デラホーヤ(米国)、やんちゃ坊主フェルナンド・バルガス(米国)らとのビッグマッチを制し名王者の階段を登っていった。
一方カンパスも1階級上げて世界のベルトを手に入れ、短命ではあったがそのアグレッシブなスタイルで本場のファンを熱狂させた。