拳を固めてサワディカップ24-2

3月1日、遅めの10:00起床。プールでひと泳ぎした後、日光浴をしたかったが、高層マンションの間にあるプールのため、11:30には陽が隠れてしまう。仕方がないから1階のレストラン、La Bonne Cafeで朝からビール。つまみの海老フリッター100B(400円)がとびきり美味しかった。

ウエイトレスの屈強なオカマは今日も愛想がない。

部屋に戻って、13:00までタイ語と英語の勉強。プールでもう一時間泳いでアルコールを抜いた後、支度をしてサーサクン・ジムへ。ドンムアン空港付近で事故があったため、到着までに1時間半もかかってしまった。

最近、なんだかジムの中が臭い。無理もないか、大量の汗が滴り落ちる上、換気も悪いサーサクン・ジムだ。呼吸が大事なスポーツなんだから、せっかくならいい空気を吸ってほしい。プロ選手やフィットネス会員全員にお願いして、みんなで大掃除を始める。WBAチャンプのノックアウトが陣頭指揮を執ってみんなてきぱきと掃除にかかっている。練習もこれくらいキビキビとやってくれればいいのに。

すっかりきれいになったところで、いつもの熱い練習。

ノックアウトのパンチの当て勘が本当によくなった。並みのハードパンチなら、肘や肩に衝撃があるのだが、彼のパンチは受けているこちらの背中に衝撃がくる。早く防衛戦での彼の見事なKOを見たい。

WBC(世界ボクシング評議会)ミニマム級チャンピオン、パンヤー・プラダブシーの防衛戦が4月16日東京で決まった。

相手はやはり、重岡優大(ワタナベ)。スピードのあるサウスポーのハードパンチャー、重岡への対策をパンヤーにしっかりと教え込む。完成度の高いこの挑戦者に、奇麗なボクシングをしていては勝ち目はない。いろいろ考えた挙句、パンヤーの長所を伸ばす指導を徹底することにした。重岡の強打を芯でもらわなければいい。多少の被弾は覚悟で、挑戦者の撃ち終わりに必殺の強打を叩き込む。この一点に集中してミット撃ちを繰り返した。リーチの短い重岡にはボディブローが有効なはずだ。厳しい走り込みをさせたおかげで、パンヤーの足腰はいいボディブローを打てる下地が出来上がっている。日本でやる以上、判定では勝てないはずだ。8ラウンドまでに重岡をイヤ倒れさせるイメージをして、二人でひたすら汗を流した。

若手たちの育成にも忙しい。キティデックやボー、ジャスティンたちのミットを代わる代わる持って、彼らの意気込みを掌で受け止めるのが本当に楽しい。

「早くタイトルマッチを作ってくださいよ、いつですか?」

まずは数戦をしっかりと勝ってからだろう。馬鹿な質問に答える時間も楽しくて仕方ない。さっき教えたパンチを、こちらに得意気に見せつけるようにサンドバッグに叩き込んでいるのもかわいくて仕方がない。勝ちたい選手と勝たせたいトレーナー。久しぶりに正しい居場所を見つけたような気がした。

3月3日にアンバサダー・ホテルで試合を控えているダオにジャブとカウンターの徹底指導。いつもヘラヘラしているダオが鬼の形相でミットに強打を打ち込んでくる。

その意気込みです。当日はセコンドにつくから一緒にがんばろうな。

すっかり日も暮れた20:00。タクシーを呼んでジムを後にする。

なんだかまっすぐホテルに帰る気がせずに、夜のジュライホテル跡地を見に行くことにした。

すっかり小奇麗になってしまったジュライサークル前で、近所のセブンイレブンで買ったチャン・ビールを片手に、歩道の地べたに腰掛ける。

バブルの残骸でカネはあったが、目標もなくウロウロしていた、かつての自分と会話するようにビールを喉に流し込むとひどく苦かった。

あれから何をやってきたんだろう。今50ちょい。70歳の自分が今の自分を見たらどう思うんだろう。正しいと思うことは刻一刻と変わる。迷わずに進めというが、無邪気に進んでいられる年齢ではなくなってしまった。

「悲しそうね。これ食べる?」

屋台のオネーチャンがルークチン(肉団子)の櫛を一本くれた。お金を払おうとしたら、悲しそうな顔で「いらない、いらない」と顔を振った。余り物のような何度も炙り直したルークチンは、とても硬かったけど、甘辛くて美味しかった。