拳を固めてサワディカップ25-1

この3月は本当に忙しかった。

3月27日、フィリピン・マニラでのアルベルト・フランシスコ(比)対ヤン・チェンチェン(中国)、4月2日、セブでのクリスチャン・アラネタ(比)対ジャクラウット・マジャンゴーン(タイ・リングネームはゴンファー・CPフレッシュマート)のマッチメイクの最終調整。2.3日おきに各選手のウエイト調整を確認し、パスポートや健康診断書、契約書にポスター用の写真などの各種書類を細かく確認。一日に何度もラルフ氏と連絡を取り合いながら、何とかこぎつけた。

ゴンファーは減量がかなり厳しかったようで、最後の1週間はまともに練習できず、ひたすら食事制限・水分カットのみでウエイトを作っていたという。

現地には駆けつけられなかったので、動画配信での観戦。ヤンは強打のフランシスコ相手に一歩も引かず、果敢に打ち合いを挑んでいた。甲乙つけがたい打ち合いは、敵地ではポイントを取ることができずに、善戦むなしく判定負け。負けたとはいえ、敵地でのこの試合内容は十分に評価されていい。胸を張って帰国してほしい。

ゴンファーは腰の引けたアラネタにうまくプレッシャーをかけながら、実にうまい戦い方をしていた。中盤まで互角の試合展開だったが、後半になると減量苦の影響が出始め、それを察したアラネタがボディブローを織り交ぜた手際のいいコンビネーションを集め始めた。徐々に消耗したゴンファーは、9ラウンド、左ボディストレートからの顔面への返しでキャンバスに崩れ落ちた。

元々バンタム級(53.5kg)のゴンファーが51.0kgまでよく頑張って落としたと思う。試合後、激しく嘔吐したゴンファーを試合当日の夜、帰国させなければならないスケジュールは、ゴンファーに対して本当に気の毒な契約をまとめてしまったと反省した。一晩中寝ずに連絡を待って、朝方無事に帰国したと聞いた時にはホッとした。

セコンドで同行したフン君に後で聞いたところによると、ゲストにマニー・パッキャオが来ていたそうだ。無理をしてでも行けばよかった。

続く4月9日、福岡市での葉月さな(YUKO)対ワチャラーポン・ナムフォン(タイ)の準備をしていると、ウォンから長文のメールが届く。

「ケンさん、先日はチャンスを作ってくれてありがとう。残念ながら勝てませんでしたが、あらためて、我々中国チームにはプロの技術を教えるトレーナーが必要だとわかりました。

我々はあらゆるスポーツを世界に通用させるために、国の機関の指導の下、中国深圳にスポーツスタジアムやトレーニングセンターを建設中です。アマチュアからもたくさんの選手をスカウトする準備もしています。そこで、ケンさんを我々のチームのチーフトレーナーとして招聘したいと考えています。ギャラは欲しい金額を言ってください。家、就労ビザ、車、免許、生活費の何から何までこちらで十分なものを用意します。スタジアムとトレーニングセンターは今秋には完成します。もしやっていただけるのなら、スケジュールの調整をお願いします。」

唐突な話に訳が分からず、

「ありがたい話だけど、私は日本で事業もやっているので、深圳にずっと滞在するのはまず無理だ。相方のチャッチャイにも相談しなければいならないし、ノックアウトやパンヤーのような世界王者の指導で手一杯だ」

「無理を承知で頼んでいます。ぜひ前向きに考えてください。わたしはあきらめません」

「各方面に相談して返事をするよ。まずは目の前の仕事があるから、また来月返事するよ」

やり取りをした後、予想外の展開にしばらく呆然としたが、気を取り直して、4月9日の試合の仕上げにかかる。

4月7日、9:00、福岡空港へ、ワチャラーポン一行を迎えに行く。ホテルのチェックインが15:00なので、仕方なく私の自宅で休ませる。自宅で体重を計るとずいぶん軽いので、ガパオライスを手作りしてもてなした。15:00、友人のソムさんの店の隣のホテルにチェックイン。隣にタイ人がいたほうが何かと彼らも安心だろう。

8日、北島ジムで計量。400gアンダーでパス。ソムさんの店に連れていき、食事をさせるが小食のタイ人はすぐに満腹になってしまう。体力のある葉月相手に体力負けしないようにたくさん食べさせたかったが、体重は増えないまま、試合当日を迎えた。

1.2ラウンド、ワチャラーポンの滑り出しは悪くなかった。控室で繰り返し教えた右カウンターを何度も葉月にヒットさせる。互角の展開の中、ふいにラッシュを仕掛けた葉月の連打をまともに食らってしまい、3ラウンドにダウン。レフェリーが10カウントを数え上げた。

ソムさんの店で残念会。やはり小食なワチャラーポンは、はじける笑顔で、

「勝てなくてごめんなさい、くやしかったなあ」

と明るく振舞っていたが、何度もトイレに立っては、帰ってくるたびに目が真っ赤になっていた。

「大好きな日本に来れたのに、負けたままでは悔しいです。また試合を組んでください。今度はもっといいボクシングをして必ず勝ってみせます」

そういってソムさん特製の大きな唐揚げをほおばった。

翌朝、5:30にホテルに迎えに行き、6:00に福岡空港へ到着。大きく手を振りながら搭乗口へ向かうワチャラーポンを見送ったとき、電話が鳴り、6月24日、ヨードモンコン対元WBCフライ級チャンピオン、比嘉大吾(志成)の試合が決まったとの一報を受けた。

まだまだ忙しくなりそうだ。