拳を固めてサワディカップ25-3

5月18日、9:00起床。プールは改装中で泳げないので、ホテル近くの食堂でカオカームーとチャン・ビールの朝食、しめて150B(600円)。ニンニクとショウガが利いていておいしかった。

部屋でのんびりした後、14:00からインタマラ47にあるタイ・マッサージ屋へ行き、1時間みっちりとマッサージ。100kgはあろうかというおばちゃんが腰に全体重をかけて踏んでくる。うつぶせのため、あばらが折れるんじゃないかというくらいの破壊力のあるマッサージ。地獄のような1時間だった。マッサージ終了後、チップをあげないどころか、文句の一つでも言ってやろうかと思って、立ち上がってみると背中も肩も見事にコリが取れてすっきりしていた。百貫デブ、恐るべし。ありがとうございました。また来ます。

タクシーを拾い、サーサクン・ジムへ急ぐ。

チャッチャイとソーダを飲みながら今後の展望の話をしていると、まだ確定ではないが、WBC(世界ボクシング評議会)ミニマム級チャンピオン、パンヤ・プラダブシー対田中教仁(三迫)のタイトルマッチが決まりそうだという。田中とは2022年8月31日、ナコンラチャシーマーで対戦し、判定で退けているが、今回はそのリマッチ。引退をかけて挑んでくる田中は以前にも増して、旺盛な闘争心で向かってくることが予想される。前回は勝ちはしたものの、田中の猛攻を持て余すシーンが多く見られたので、今回ははっきりと決着をつけたい。ズバリ、KO狙い。

ほどなくしてやって来たパンヤと、8ラウンズのミット撃ち。今回は手数よりも、突進してくる田中の勢いを止めるための強いジャブを重視してみっちりと教え込んだ。正確なジャブ3発から続く右ストレート。タイミングを変えた4種類のワン・ツーを何度も何度も繰り返す。打ったらサイドへ動き、ボディから顔面へフックを返す。最初は複雑なコンビネーションに戸惑っていたパンヤだったが、何度も繰り返すうちにコツをつかんだのか、鋭いパンチがミットに吸い込まれていく。背中まで衝撃が来るほどの鋭いパンチだ。

前回タイに来た際のダオの試合の時、みんなでスクンビット通りを歩いていたが、パンヤに声をかけてくる者もいなければチャンピオンだと気づく者もいなかった。世界チャンピオンといってもこの程度の知名度なのかと少しがっかりした。かつての名チャンピオン、カオサイ・ギャラクシーやサーマート・パヤカルーンのような一般の人たちにも認知されるチャンピオンになってほしい。となれば、やることはただ一つ。圧倒的な強さで防衛を重ね、マスコミからしっかりと取り上げてもらえるようなチャンピオンになることだ。

ムエタイの影響なのか、タイのボクシングはスローで見た目の華やかさに欠ける。教えるトレーナーもスローなタイ人である以上、仕方がないことなのだろう。だが、かつてタイでは、1980年代や1990年代に、チャールズ・アトキンソン(英国)やイスマエル・サラス(キューバ)という海外の名トレーナーを招聘し、WBCスーパーフライ級チャンピオン、パヤオ・プーンタラットやWBAフライ級チャンピオン、セーン・ソー・プルンチット、WBAスーパーフライ級チャンピオン、ヨックタイ・シスオーなどの質の高い王者を量産した時代があった。日本のボクシングはスピードもあり、技術的にも世界でもトップレベルだと思う。この日本式ボクシングを身体能力の高いタイ人に教え込み、町を歩いていても人だかりができるような、スーパーなチャンピオンに育て上げてみたい。

パンヤの指導が終わると、WBA(世界ボクシング協会)ミニマム級王者、タマノーン・ニョムトロン(リングネーム:ノックアウト・CPフレッシュマート)がニヤニヤしながらスタンバイしている。汗だくの顔をタオルで拭っていると、

「ケンさん、ビールばかり飲んでいるからバテるんですよ。僕のミットはゆっくり休んでからでいいですよ」と嫌味を言われた。

5分くらい休んでからと思ったが、そう言われたら「はいそうですか」というわけにはいかない。

休みなしでさらに7ラウンズのミット撃ち。パンヤよりもパンチがある。単発で終わりがちなタマノーンに休みないコンビネーションを教える。体幹やバランスがいいので、角度やポジションを変えても正確なパンチを次々に打ち込んでくる。左フックを打つ際、脇が開きすぎる癖はあるが、これは後々時間をかけて直していこう。今日はリズムのある絶え間ない連続攻撃を体に染み込ませよう。

終わったころにはもう汗だく。体重計に乗ると3.0kgも体重が減っていた。

「ケン、彼らのスタイルが変わりつつあるね。この調子で彼らをうまく乗せて伸ばしてやってほしい。しんどいだろうけど、ビールを控えめにして頑張ってくれ。期待してるよ」

と、チャッチャイも満足そうだった。

ホテルに戻り、妻を連れてスリウォンにあるマリオットホテル・ヤオ・ルーフトップ・バーへ。最上階33階から望む360度に広がるバンコクのきらびやかな夜景を見ながら飲むビールは最高だった。絶景をぼんやりと眺めながら、やはり、試合の時、彼らのパンチがいつ、どのように相手のアゴをとらえるか、そんなことばかり考えていた。