ベストパンチ8

1996年3月16日 米国 ネバダ州 

WBCミニマム級タイトルマッチ

チャンピオン リカルド・ロペス(メキシコ)KO8R 挑戦者 アラ・ビラモア(フィリピン)

あのマイク・タイソンがレイプ事件を起こし収監され、スター不在だったボクシング界。そのタイソンが復帰戦を経て圧倒的な強さで世界ヘビー級王座に返り咲いたこの日。稀代の大プロモーター、ドン・キングはそのスーパースターに6大世界タイトルマッチという途方もない舞台を用意した。

その前座に登場したミニマム級王者、リカルドロペス。1990年2月に日本の大橋秀行から鮮やかな5ラウンドKOで王座を射止めると、敵地であろうとお構いなしに防衛戦を重ねること14度。その無敗記録は41戦全勝(31KO)。精密機械のような完成されたスタイルで磐石の強さを誇っていた。

そのロペスに挑んだのがフィリピンが自信を持って送り出した強打のサウスポー、ビラモア。母国の名門ALAジムでアマチュア時代から英才教育を受け、そのハードパンチを買われ、経済大国日本にスカウト移籍後、順調なキャリアを積んで世界1位に浮上。安定王者ロペスを脅かす最右翼としてラスベガスのリングに上がった。

この日、両拳を痛めているロペスはいつもより神経質に長めの距離で徹底したアウトボクシングを展開。一方、中間距離や接近戦を得意とする超攻撃型のビラモアはベストの距離にありつけるまで辛抱強くじりじりと詰めていく。

距離をキープするために、得意の左フックを温存、ロングのストレート一本でビラモアの突進を捌いていくロペス。ビラモアは活路を見出そうとロペスのストレートパンチに対して、同じく長いジャブからの攻撃に切り替えた8ラウンド、ロペスのベストパンチが炸裂した。

ロングレンジのワン・ツーでビラモアの目を直線対応にしておいて、すかさずジャブと同じモーションで左アッパー。ワンテンポ遅れて真下に膝から崩れ落ちたビラモアは大の字になってテンカウント。ありえない角度、ありえない距離のこのスーパーブローに、ビラモアのセコンドについていたジョー小泉は「こんなのありか」と呆れるしかなかったという。

軽量級にさほど興味を示さない本場ラスベガスのファンたちも、このボクシング史上稀に見る美しいノックアウトに最大級の賛辞を惜しまなかった。