拳を固めてサワディカップ30-1
2023年も残すところ、わずか一か月。WBC(世界ボクシング評議会)ミニマム級タイトルマッチ、パンヤの王座陥落は本当にショックだった。年の瀬だというのに、仕事をしていても、100%の集中ができていないのをひしひしと感じる。気晴らしに、ドライブに行っても、飲みに行っても、もう一つ気分が晴れない。
このままぼんやりと年を越すのかと思っていると、福岡の白銀会長から連絡。2024年㋂に、筑豊で初興行をするから、タイ人選手を二人呼びたいとのこと。通常は2か月前から、段取りをしていくのだが、毎年3月と㋃は、春節の影響もあり、モタモタしていると、航空券が嘘みたいに値上がりする。普段懇意にしている、白銀会長の経費節減のためにも、少しでも早くマッチメイクに取り掛かろう。青島氏と友人のサイトーンのおかげで、選手はすぐに見つかった。年をまたぐと、JBC(日本ボクシングコミッション)からの承認も遅れてしまう。そこから航空チケットを手配すると、莫大な金額になってしまう。異例の前倒しで、バタバタと試合を決め、年内にJBCからの承認を取り付けた。間髪入れずに、すかさず航空券を手配する。何とかべらぼうになる前の金額で、予約することができた。
ひと息ついたのもつかの間。今度はインドネシア人の女性マッチメイカー、ロサ・クスマから、2024年1月27日、ベトナムのホーチャムで出場できる、バンタム級ボクサーはいないかと依頼があった。
こちらのほうがもっと時間がない。
普段は、興行の詳細をSNSにアップして、応募があった選手のプロフィールをプロモーターに送るだけでいいのだが、このロサのマッチメイクは、SNSでの投稿は一切禁止。直接交渉のみの打診で、不特定多数に公開してはいけないという。5倍の手間がかかる仕事のやり方だが、それが向こうのルールなら仕方がない。タイ、中国、オーストラリア、インド、フィリピンと、いろいろな国のマッチメイカーに声をかけ、みんな、乗り気で選手のデータを送ってくれるのだが、どんなプロフィールをロサに送っても、戦績が悪い、歳を取り過ぎている、サウスポーはダメだと、なかなかロサ側がイエスと言ってくれない。
年末年始は選手探しが大変なんだから、適当なところで手を打ってくれよ、と思わなくもないが、安くはないチケットを買ってくれる観客のため、興行を支えてくれるスポンサーのため、金額に見合うパフォーマンスを見せることができるボクサーを用意したいという、マッチメイカーの気持ちはよくわかる。楽な仕事ではなく、いい仕事をしたいという、プロ根性丸出しの、彼らの希望に沿う仕事をこちらもしたい。
最後の手段で、日本各地のジムに連絡を入れ、何とか湘南龍拳ジムの大橋波月選手の出場を取り付けた。元々、フライ級(50.8kg)の大橋選手がバンタム級(53.5kg)で出るというのは、かなりの体格のハンデがある。ロサに精いっぱい、ファイトマネーを吹っかけて、なんとかこのマッチメイクも成立した。日本の選手をベトナムに派遣するのは初めてのことだったので、乗り換え便や、現地での送迎の打ち合わせなどで、最後のほうは本当にへとへとだった。
川端会長、急な申し出に対応下さり、ありがとうございます。
さらに難題は続く。
フィリピンのオメガプロモーションのラルフ氏から電話。
2024年1月26日、セブ島で行われる試合の相手を探してほしいとのこと。相手はオメガ・プロモーションのホープ、9勝(6KO)1敗のベニー・カネテ(比国)。アジア各国のマッチメイカーに打診するが、時間もないし、ファイトマネーもあまりよくないせいか、なかなかいい返事が来ない。最後の最後で、青島氏がタイ人、ピサヌ・シムスムトーンを用意してくれた。カネテは、フィリピン期待の有望選手だが、キャリア65戦のピサヌなら、きっといい試合をしてくれるだろう。
あぁ、本当に忙しい年末になった。
やはり、気分が落ち込んだ時は、仕事に没頭するに限る。いつの間にか、パンヤの敗戦のショックもどこかに吹き飛んでいた。
忙しかった2023年も、もうじき終わる。今年も本当にいろいろなことがあった。相変わらず、バタバタと仕事をして、そのたびに一喜一憂しながら、ガッツと根気で乗り越えてきた。もう少しスマートに仕事ができないものか。性格もあるから仕方ないのかもしれないが、あきらめずに、昨日よりもスマートに賢く、質の高い会社作りをしていきたいものだ。
取引先各位、本年も誠にお世話になりました。心より感謝申し上げます。
すべての仕事が終わり、無事に年を越し、実家に帰って正月休みを満喫していると、青島氏から電話。
「大晦日の元WBC世界フライ級チャンピオン、比嘉大吾(志成)対、WBC世界バンタム級1位、ナワポン・カイカンハ(タイ)の試合に同行してきた、ナワポンの会長、スチャートさんが、東京のホテルにバッグを置き忘れたまま、帰りの成田空港に来てしまった。これからホテルに戻ると、フライトに間に合わないから、善後策を考えてほしい」
とのこと。
元WBA、WBCバンタム級チャンピオン、ウィラポン・ナコンルアンプロモーションや、元WBCスーパーフライ級チャンピオン、シーサケット・ソー・ルーンピサイを輩出した、ナコンルアンプロモーションのボス、スチャートさんの頼みとあれば、断るわけにはいかない。コロナパニック前の2019年、事務所にお邪魔した4年前が懐かしい。
「ボクシングに携わっている以上、我々は大いに苦労する必要がある。これまでもそうしてきた。そして、これからもだ」
スチャートさんのあの説教を、一日たりとも忘れたことはない。
「わかりました。東京のホテルから私の自宅に、スチャートさんのバッグを郵送させましょう。そのバッグを持って、今月タイに行く際に、スチャートさんにお届けします」
パンヤの敗戦のショックで、頭や気分がぼんやりしていた時間はもう終わりだ。
急遽、タイに行くことになった。お屠蘇気分もすっかり覚め、航空チケットを手配。元旦からこの調子では、今年も忙しくなりそうだ。