ベストパンチ12
2000年3月4日 米国 ネバダ州
WBAスーパーバンタム級タイトルマッチ
挑戦者 クラレンス・アダムス(米国)判定12R チャンピオン ネストール・ガルサ(メキシコ)
トップアマチュアから鳴り物入りでプロ入り。27戦全勝のレコードを引っさげて、わずか17歳でIBFバンタム級王座に挑むもののこれは相手が悪かった。当時、オルランド・カニザレス(米国)は16度の防衛を誇る名王者。若さで果敢にアタックしたが、全盛期の王者は磐石のボクシングでこれを跳ね返し11ラウンドにTKO。アダムスは初の屈辱にまみれることとなった。
この敗戦で尖った風貌やキャラクターが仇となり、商品価値が暴落したアダムス。その後のカムバックロードも冴えないカードばかりで、わずかに元WBCフェザー級王者、ケビン・ケリー(米国)戦をかろうじてドローに持ち込んだ一戦が目を引く位だった。粘り強く世界ランキングを這い上がってはきたが、見た目もボクシングもすっかり落ち着いてしまい、体のいい中堅どころで終わってしまいかけたところにアダムス久々のタイトルマッチの舞台が用意された。
迎え撃つ王者はティグレ(虎)の異名を持つメキシコのスラッガー、ガルサ。99年11月には来日し、日本期待の強打者、石井広三(天熊丸木)と歴史に残る大打撃戦を演じ、最終回に劇的なKOでこれを制した攻防兼備の好選手。37勝(29KO)1敗の戦績は本物で、老雄アダムスには荷が重過ぎる相手だった。
しかし、若くして苦労を重ねてきたアダムスが数字だけでは計れない「円熟」という武器を手に入れていることを知っている者はアダムス陣営以外にいなかった。
第1ラウンド、上体を振りながらエネルギッシュに攻め込んでいくガルサの動きをアダムスは冷静に把握・分析していく。ガルサ自慢のビッグパンチの後には必ずコツコツと実直なパンチをリターンする。2分過ぎ、右ボディからの左アッパーをカウンター。ガルサが後方へ吹っ飛ぶようにダウンした。20秒前にもアダムスは右ボディを打っているのだが、この時ガルサが反射的に左フックを合わせに来るのを見逃していなかったのだ。
3回、バッティングで左瞼をザックリとカットしたガルサは手負いの猛攻をかける。ハンデを背負ったメキシカンは強い。圧力を強め左右の強打を振り回しアダムスを追いかける。ガルサに多少のスキが見え始めるが、アダムスはまだ無理をせず、王者の決定的なミスを辛抱強く待ち続ける。
5ラウンド2分を回ったところで、苦労人アダムスのベストパンチがガルサを捕らえた。
ガルサの突進は回を追う毎に増し、挑戦者がロープ際に追い込まれるシーンが多くなってきたが、よく見るとガルサが追い込んでいるのではなくアダムスが誘い込んでいるのがわかる。
ダウンによるポイントのハンデ、カットによる大量出血の窮地を巻き返そうと、若い王者が直線的にルーズな追いかけ方をした瞬間、アダムスの右クロス、左フックのコンビネーションが爆発した。
背中からキャンバスに叩きつけられたガルサの表情が印象的だった。
信じられないタフネスで立ち上がり、悲壮な猛攻をかける王者だったが、仕事人アダムスは無理をせず、要所に出鼻をカウンター。ワンサイドの判定勝ちを収め、苦節10年、初の栄冠に輝いた。
若武者の勢いのあるボクシングと違い、「やりたいこと」ではなく「やるべきこと」を完遂する大人のボクシングが味わい深かった。