ベストパンチ14

1985年12月6日   米国 ネバダ州
統一世界ウェルター級タイトルマッチ
WBA王者 ドナルド・カリー(米国)KO2R WBC王者 ミルトン・マクローリー(米国)

80年代を席巻したスーパースター、シュガー・レイ・レナード(米国)が網膜剥離のため引退。これによりすっかり抜け殻状態となった中量級。並みの王者では類まれな輝きを放っていたレナードの後継者となるには荷が重すぎた。そんな中、次世代を担うに値する二人のスター候補が台頭してきた。

WBA王者カリーはアマチュアで400戦を超える驚異的なキャリアを積みプロ転向。レナードが返上した王座を韓国の荒武者、黄俊錫と争い、激闘の末獲得。ここまで5度の防衛に成功、やや線は細いものの、その洗練されたテクニック、”コブラ”の異名通り切れのある強打でスーパースターへの第一段階をクリアしてきた。ここまで23戦全勝(15KO)。まさに全盛期を迎えようとしていた。

対するWBC王者マクローリー。デビューからいきなり16連続KO勝ち。カリーと同じくレナードの後継者にふさわしい華のあるファイトで白星を積み重ねる。WBC王座決定戦では曲者、コリン・ジョーンズ(英国)と引き分けるものの、再戦では完勝。晴れて緑のベルトを腰に巻いた。以後、4度の防衛戦も危なげなくこなし、ウェルター級最強を証明すべくカリーとのビッグマッチに駒を進めた。戦績は27勝(21KO)1分と見事なものでオッズは全くの五分。ラスベガス・ヒルトンホテルの特設リングには異常なまでの緊張感が漂っていた。

第一ラウンド。186cmのマクローリーと179cmのカリー。共に長身の両雄は実に端正なスタイルから気品あふれる左ジャブを応酬。それは互いに極上のショットだが、二人の天才は抜群の距離感でクリーンヒットを許さない。まるでつま先に目が付いているかのようなセンチ単位の位置取りが素晴らしい。

1分過ぎ、リーチに若干のハンデがあるカリーが、プレッシャーを強め、やや強引に接近。ジャブをかいくぐっての左フックでマクローリーの膝を揺らす。この時カリーはマクローリーの左ジャブのタイミングを完全に掴んでいた。

レナードの好敵手、トーマス・ハーンズ(米国)と同じクロンクジムのマクローリー。そのスタイルも兄弟子に酷似している。長い左ジャブでセットアップ。続く右の長距離砲で対戦相手をねじ伏せる典型的なパンチャー・スタイル。ツボにはまれば抜群の強さを誇るが反面、小細工がなくパンチの種類もそう多くはない。

カリーはマクローリーのパンチの出所、引き際のタイミングを虎視眈々と狙っていた。そして続く2ラウンド、技ありのベストパンチがマクローリーを打ち砕いた。

1分過ぎ、またもカリーの左フックがマクローリーのジャブをかいくぐってヒット。大きく泳いだWBC王者をぐいぐいと追いかける。まだ序盤戦。肉弾戦は避けたいマクローリーが距離をとろうと無造作に出したジャブをカリーは許さなかった。

先の2度のタイミングよりもさらに鋭く、カリーの左フックが深々とマクローリーのアゴを抉った。ほぼ相打ちのようなタイミングだ。

激しく後頭部を打ち付けてダウン。何とか立ち上がったもののストップされてもおかしくないほど朦朧としたマクローリー。観客への責任感か、将校上がりのレフェリー、ミルズ・レーン(米国)は厳しい貌で続行を命じる。

わずか2秒後。カリーの狙い済ました右のオーバーハンドがテンプルを捉えて後継者決定戦は幕を閉じた。

パンチの種類は理屈上は左右のストレート、フック、アッパーの6通りだが、打ち方や長さ、タイミングを変えることでいくらでもバリエーションは増やせるということを知らしめた一撃だった。