ベストパンチ18

1996年 3月16日 米国 ネバダ州

IBF世界ミドル級タイトルマッチ

王者 バーナード・ホプキンス(米国)KO4R 1位 ジョー・リプシー(米国)

史上最高齢の世界チャンピオンとして現在も活躍中の脅威の中年、ホプキンスの若かりし頃のベストパンチ。

レイプ事件により収監されたマイク・タイソン(米国)が3年8ヶ月の時を経てカムバック。テストマッチを終え、フランク・ブルーノ(英国)の持つWBCタイトルに挑むビッグ・イベントのアンダーカードに用意されたこの試合。スーパーマン、ロイ・ジョーンズ(米国)と名勝負を繰り広げながらもうひとつ地味な存在に甘んじていたホプキンス。この日の大舞台で世界中に実力をアピールせんと気合十分でリングに上がった。

対するは無敗のサウスポー、リプシー。ここまで25戦全勝(20KO)の29歳。左構えから繰り出される強打は左右共に威力十分。これまでサウスポー相手に拙戦を演じたこともある王者だけにオッズも接近したものだった。

1ラウンドから闘志むき出しで王者に肉薄するリプシー。この日の挑戦者の踏み込みの鋭さ、判断の速さが秀逸なため、右構え対左構えの勝負の鉄則である前足のポジション取りでホプキンスは後手に回りがち。1,2ラウンドは圧倒的に挑戦者がポイントを抑え、タイトル奪取へ理想的なスタートを切った。

一方、ホプキンスも真っ向勝負では分が悪いとふんだのか、引き際にカウンター・アタックを仕掛ける戦法に切り替える。リプシーが入ってくれば完全にやり過ごしてクリンチで相手の戦意を削ぎ、来ないとわかるとすかさず手際のいい連打をまとめる。クリーンヒットこそ少ないものの、激しいペース争いにリング上は鋭い緊迫感が漂う。

迎えた4回、もう一度はっきりとペースをつかみたい挑戦者がやや強引に突っ込んだところに、王者の見事な右フックから返しの左フックがカウンターで命中する。たたらを踏んだリプシーに対し、まだホプキンスは追撃をかけない。ピンチこそチャンス、と勝負師の本能で必死に反撃するリプシーのパンチにまだ破壊力が健在なのを冷静に見定めている。”死刑執行人”のニックネームがうなずける確実な試合運びだ。

ラウンド終了15秒前、決定的な隙を見せたリプシーにホプキンスの満を持した強烈な右アッパーが勇敢な挑戦者の右アゴをこれ以上ないタイミングで跳ね上げた。

立ったまま失神したサウスポーは指で押しても倒れる状態。そこに王者の情け容赦ない右・左・左・右のコンビネーションがすべて急所に炸裂。挑戦者が棒のようにキャンバスにダイブしたのを見て、名レフェリー、ミッチ・ハルパーン(米国)はノーカウントで試合を止めた。