ベストパンチ21

1990年6月19日 米国 フロリダ州

スーパーバンタム級10回戦

イスラエル・コントレラス(ベネズエラ)KO1R ウィルフレド・バスケス(プエルトリコ)

中南米の強打者同士がノンタイトルで相まみえた無冠戦。わずか3分足らずではあったが、技巧・駆け引き・そしてボクシングのダイナミズムが凝縮した名勝負。

日本にもおなじみのプエルトリコはバヤモン出身のパンチャー、バスケス。デビュー戦から黒星スタートと躓くが、以後は連戦連勝、そのほとんどをノックアウトで飾る。プエルトリコが生んだ歴代のスター王者たちに比べれば、地味ではあるがその必殺の左フックは早くから玄人衆を唸らせてきた。アントニオ・アベラル(メキシコ)やミゲル・ロラ(コロンビア)ら、世界王者経験者には苦杯を喫したものの、堅実なキャリアを重ね、時のWBA王者、朴賛栄(韓国)を滅多打ちの末10ラウンドにTKO。バンタム級の頂点に立った。

初防衛戦で前チャンピオン、六車卓也(大阪帝拳)に幸運なドロー。二度目の防衛戦でカオコー・ギャラクシー(タイ)の挑戦を受けあっさりと陥落。後に日本に何度も来日し、技巧派サウスポー、横田広明(大川)やプリンス葛西裕一(帝拳)を一蹴し、IBFのレジェンド、オルランド・カニザレス(米国)や脅威のパンチャー、エロイ・ロハス(ベネズエラ)らを翻弄した円熟の技巧はこの時点ではまだ完成しておらず、荒削りな強打者の域を脱していなかった。そんなバスケスが2階級制覇を狙って対戦したのが後のWBAバンタム級チャンピオン、コントレラスだった。

20歳と遅いスタートを切ったコントレラス。豪快な左右を振り回す派手な試合っぷりでデビューから5年間無敗の24勝(16KO)1分でタイのスーパースター、カオサイ・ギャラクシーの持つWBAスーパーフライ級タイトルに挑むが全盛期の王者の前にあえなく5回KO負け。再起戦でも前WBCフライ級王者、エルビス・アルバレス(コロンビア)の技巧に屈する。連敗を糧に王座奪取への執念を燃やし、トライアルマッチ第2弾として前王者、バスケスとの中南米決戦に臨んだ。

開始早々、互いのテンションが高い。いつものように豪快に左右を振り回すコントレラスのソリッドな強打を柔軟なウィ-ビングを駆使、紙一重でかわしざまこれまた抜群のタイミングでカウンターを狙うバスケス。ともに最終回のゴングは必要ないとばかりに快調に飛ばす。

その思い切りのいい振り抜きを見れば一目瞭然だが、両者の強打は全く同質のもの。当たれば一撃で試合を終わらせる破壊力を秘めている。タフネスに自信のあるコントレラスは顔面のみに的を絞り鋭い角度のコンビネーションで勝負をかける。一方、コントレラスに比べ、アゴの耐久性に難があるバスケスは、アゴを引きボディから顔面へ左フックを返す。コントレラスのカウンターを警戒した実に巧妙なスタイルで応戦。まるで最終ラウンドであるかのような火の出るような打ち合いを徐々に制していったのは重心をどっしりと落としたバスケスのほうだった。

1ラウンドの残り10秒に差し掛かったとき、不意にコントレラスがコーナーを背負った。頭の低いバスケスに根負けした格好でコーナーポストに背中をつけたコントレラス。絶好のチャンスを迎えた場面でバスケスはなおも冷静。喜び勇んで顔面への強打を放たず己の打たれ弱さをかみしめるようにあくまでボディブローからの連打を用意。もぐりこんでいけばアップライトスタイルのコントレラスから弱点のアゴをカウンターされることはない。満を持して襲い掛かったバスケスにコントレラスはヒザを落としバスケスと同じ高さに相対した。

バスケスにとってまさかの景色だったが、必勝パターンから打ち出したパンチは止まらない。そこにあり得ない態勢からのコントレラスの右カウンターがベストパンチとなってバスケスの左アゴを深々と打ち抜いた。これ以上ないタイミングだった。

前のめりにダイブしたバスケスは四肢を痙攣させて失神。レフェリーはテン・カウントを数え上げ、電光石火の初回KOが成立した。

これほどの実力者同士がわずか2分57秒の間に全てを出し切った素晴らしい試合だった。

コントレラスはその後、天才、ルイシト・エスピノサ(比国)から王座を強奪。一方バスケスも捲土重来、WBA3階級制覇を達成。名王者として歴史にその名を残した。