ベストパンチ26
2008年10月4日 プエルトリコ ハトレイ
WBOスーパーバンタム級タイトルマッチ
王者 ファン・マヌエル・ロペス(プエルトリコ)KO1R 挑戦者 セサール・フィゲロア(メキシコ)
プエルトリコの豪快な倒し屋、ロペスが見せたテクニカルな一発。僅か47秒の間に炸裂したこのベストパンチは、サウスポーの教科書のような見事なものだった。
その荒々しいファイトスタイルとは裏腹に、ロペスのキャリアはエリート街道まっしぐら。10歳からボクシングを始め、2000年から2004年までアマチュア国内王者として君臨。アテネオリンピックにもプエルトリコ代表として出場、惜しくも1回戦で敗退したが、同年、126勝24敗の戦績を引っさげてプロ入り。KOの山を築き、21戦全勝(19KO)のパーフェクトレコードで時の王者、ダニエル・ポンセ・デ・レオン(米)の持つWBOスーパーバンタム級王座に挑戦。全階級を通じて評価の高かった王者に真っ向から打ち合いを挑み、戦慄の1RKOで戴冠を果たす。そして迎えた初防衛戦、新王者のマネジャーが選んだ相手は曲者のメキシカンだった。
挑戦者はメキシコシティ生まれの31歳。デビューからいきなり引き分けを挟んで15連勝をマーク。この試合までに六つの黒星があるが、これはロバート・ゲレロ(米国)や前述のデ・レオンなど、後の世界チャンピオンを含む強豪相手に喫したものばかり。格上には一歩及ばないが、中堅・格下からは決して取りこぼさない堅実なキャリアで、辛抱強くランク・アップ、初めてのタイトルマッチの檜舞台に辿り着いた。ここまで29勝(21KO)6敗2分とキャリア充分。粘り強いボクシングで若武者ロペスのリズムを崩し、次世代のスーパースター候補を大いに苦しめる、そんな試合展開も想像に難くなかった。
1R、開始早々、挑戦者は大きなミスをする。サウスポーの王者に対して右回りをしている。オーソドックスの定石であるアウトサイドへの左足の位置取りを捨てている。考えられるのはふたつ。チャンピオンの強打を警戒してのロングレンジでの戦いを選択したのか、もしくは王者の左を外しざまに右を打ち込む作戦か。
結果は後者だった。開始から僅か30秒過ぎ、挑戦者が何度も反復練習したであろう、そしてこの一瞬に賭けたであろうシーンが早速訪れる。チャンピオンが打ち込んだ左ストレートをスウェーバック。そしてすかさず右クロス。そのタイミング、角度は全く申し分ないものだった。
だが、恐ろしいことに、たった30秒の間にこの若いチャンピオンはベテラン挑戦者の思惑を全て見切っていた。
フィゲロアが打った右クロス、これは実はロペスが「打たせた」右クロスだった。左足をサイドにスライドさせながら打ち抜いた右フックが鮮やかなカウンターとなり、挑戦者のアゴをまともに打ちぬいた。
前のめりに倒れたフィゲロアには何が起こったのか全く分からなかっただろう。気がついたときにはレフェリーは10カウントを数え上げていた。