ベストパンチ27

1993年5月8日 米国 ネバダ州
WBCミドル級タイトルマッチ
挑戦者 ジェラルド・マクラレン(米国)KO5R 王者 ジュリアン・ジャクソン(バージン諸島)

ノックアウトのダイナミズムがたっぷり詰まった世紀の一戦。この対戦カードが決定した時点で、この試合にジャッジが必要ないことは周知の事実。その期待を裏切らないスリリングな攻防、そして予想通りの衝撃的な結末で世界中のボクシングファン・関係者を興奮の坩堝に叩き込んでくれた。

ここまで46勝(42KO)1敗の戦績を誇る歴史的ハードパンチャー、ジャクソン。その左右の強打は「破壊」という言葉がまさにふさわしく、急所であろうがなかろうが、その強打を浴びると対戦者たちは一発で喜劇的に倒れ失神した。1981年2月のデビュー以来無敗の快進撃でKO勝ちを重ねるも後の3階級王者、マイク・マッカラム(米国)の速攻の前に不覚の黒星を喫したものの、復帰後はまたもKOの山を築き、1987年11月22日、韓国の強打者、白仁鉄を難なくノックアウト。空位のWBAスーパーウェルター級王座に輝いた。この王座をすべてKOで3度守った後、ジャクソンは1階級上げこれまた空位のWBCミドル級王座を変則技巧派、へロール・グラハム(英国)と争い見事なワンパンチKOで2階級制覇。この王座も易々と4度防衛、恐怖のハードヒッターとしてその座を不動のものにしていた。

すっかり安定政権を築いた王者の前に現れたのが、かつて6階級を制覇した80年代のスーパースター、トーマス・ハーンズ(米国)を輩出した名門クロンクジムの若きホープ、マクラレン。アマチュアでゴールデン・グローブに輝き、鳴り物入りでプロ入り。デビューからノックアウトを重ねるが、天狗になったマクラレンはトレーナーとの不和なども重なりデニス・ミルトン(米国)、ラルフ・ウォード(米国)といった伏兵にまさかの連敗。気を取り直してハードトレーニングに励んだ結果、すっかり立ち直り1991年11月20日、ビースト(野獣)のニックネームを持つビッグネーム、ジョン・ムガビ(ウガンダ)を衝撃の1ラウンドKOでまずはWBOのミドル級タイトルを獲得。しかし当時のWBOはまだマイナー団体だったため、マクラレンはこれに甘んじることなくメジャーなタイトルに照準を当て、ジャクソンとの夢の強打者対決に駒を進めた。ここまでマクラレン27勝(25KO)2敗。

初回から両者惜しげも無く自慢の強打を振るい合う。そこに駆け引きは一切なく、当たれば必ずどちらかが倒れるスリルにトーマス&マックセンターの観客は早くも総立ち状態。挑戦者の長い右クロスでジャクソンの膝が揺れる。

左右のフックを得意とするジャクソンは2回、驚異的な勇気でぐいぐいと距離を詰める。マクラレンのロングの強打を防ぐ作戦に切り替える。上下を巧みに打ち分け若き挑戦者を後退させ自慢の強打を振るい続ける。この距離ならマクラレンの強打を殺せる。そう大きな勘違いをしたジャクソンは5ラウンド、豪快にリングに沈むことになる。

マクラレンの強打の秘密は当たった後の打ち抜きの長さに尽きる。並の選手の倍ほどの打ち抜きで対戦者の首をねじ切りにかかる。その強打はショートで放たれたとしても十分な破壊力を持って撃ち抜かれる。スリル満点の攻防の中、決死の思いで距離を詰めたジャクソンには挑戦者のショートの照準が合ってきていることに気づく余裕はなかった。

5ラウンド1分過ぎ、ジャクソンのローブローでしばしの休憩が与えられる。その直後、強引に入りかけたジャクソンにマクラレンのベストパンチ、打ち抜き満点の右ストレートが炸裂した。倒れかける王者に強烈な左フック2発。リング中央からエプロンサイドまでふっ飛ばされる戦慄の一撃。

ジャクソンは執念で何とか立ち上がったものの、同じ右を撃ちぬかれ再びダウン。割れた額から大量に出血しながら意識朦朧の王者をミルズ・レーン(米国)レフェリーが救ってWBCミドル級タイトルは移動した。