ベストパンチ30
1965年5月25日 米国 メイン州
世界ヘビー級タイトルマッチ
王者 モハメド・アリ(米国)KO1R 挑戦者 ソニー・リストン(米国)
言わずと知れたボクシング界のスーパースター、モハメド・アリがその実力を世界中に知らしめた一戦。
今年6月、逝去によりボクシング界に深い悲しみを落としたレジェンド・アリ。1946年1月17日、ケンタッキー州ルイビルでこの世に生を受けたアリ。本名カシアス・マーセラス・クレイ。1960年ローマオリンピックでライトヘビー級で金メダルを獲得。英雄として我が世の春を謳歌するつもりが、根強く残る黒人差別に直面し、「今度はプロだ。世界王者になって真っ赤なキャディラックを買うんだ」の悲しい名セリフとともにプロ入り。
快進撃はプロになっても止まらない。1962年には元ライトヘビー級世界王者、アーチー・ムーア(米国)にも”Moore in Four”の予告を見事に実現、4ラウンドKO勝ち。いよいよ最強の称号を求めてヘビー級に進出した。
時のヘビー級王座にはとてつもない怪物が君臨していた。幼い頃から犯罪に手を染め、逮捕歴は100回以上。マフィアとも関係の深い筋金入りのミスター・タブー・リストン。当時ボクシング界を仕切っていたマフィア、フランキー・カルボの庇護の元で連戦連勝。巨体から繰り出される左右の強打を武器に1962年9月25日人気王者、フロイド・パターソン(米国)に挑戦。1ラウンド電撃KOで世界ヘビー級王座を強奪。リターンマッチでも初回KOでクリアし、恐怖のリストン王朝は10年は安泰だろうと誰もが確信した。
”蝶のように舞い蜂のように刺す”であまりにも有名なアリのスピードボクシング対リストンの爆撃機のようなハードパンチ。所詮下クラスから上がってきたアリでは相手にならないだろうとも予想を覆し、6ラウンド終了KOでアリは世界の頂点に登りつめた。
”I am a greatest”何度も何度もリング上で叫び続けたアリだが、リストンの棄権という不完全燃焼な結末もあって、必然的にリマッチの舞台が用意された。今度こそアリはリストンの強打に捕まるだろうの予想とともに。
試合は最も予想し得なかった形で終わる。
1ラウンド、リストンは状態をゆすりながら前回以上のプレッシャーをかける。アリはリングを大きく使い、軽快なステップワークでこれをさばく。初戦の展開と同じかと思われた矢先、非力だと思われたアリのスピード・タイミング・キレ全てが完璧に決まったベストパンチが炸裂する。
2分が過ぎようとしたところ、リストンが放ったジャブにかぶせるように、不思議なくらい力の抜けたアリの右クロスが鞭がしなるように挑戦者のアゴを鋭く捉えた。後に八百長を疑われるほどパワーを感じさせないパンチ。KOパンチとは力ではなくスピードとタイミングの賜物とはまさにこのこと。
前のめりにごろりと倒れたリストンは必死にもがくが神経中枢を破壊されたリストンにレフェリーは非情のテンカウント。リストンは何をもらったのかさえ解らなかっただろう。”ファントム・パンチ”その名にふさわしいパーフェクト・ショットだった。