ベストパンチ37
1995年5月6日 東京 後楽園ホール
フェザー級10回戦
ルイシト・エスピノサ(比)KO8R シンヌン・チュワッタナ(タイ)
国際マッチメーカー、ジョー小泉が「ワールドチャレンジャースカウト」と銘打った興行の第二弾。
本物を見てもらいたいと、彼が持つコネクションを最大限に駆使しての豪華なカードが目白押し。
どれも素晴らしい好試合だったが、一番目を引いたのがこの一戦。前WBAバンタム級王者、エスピノサと35勝(34KO)2敗という驚異の戦績を誇るタイ国フェザー級チャンピオン、シンヌンの倒し倒されの一番はまさに圧巻だった。
白井義男(王子)の世界フライ級王座に挑戦したこともあるレオ・エスピノサの良血を引くルイシト。カオコー・ギャラクシー(タイ)を電撃の初回KOでWBAバンタム級王座を強奪するも、減量苦もあり3度めの防衛戦でイスラエル・コントレラス(ベネズエラ)によもやの5回KO負け。マネージャーとの不和もあり、フィリピン国内で干されてしまった天才児は日本での再起に活路を見出す。
バンタム級王者時代にルイシトの素質の素晴らしさに心を奪われたジョー小泉はマネージャになることを決意。私財を費やしてルイシトのカムバックロードに尽力を惜しまなかった。この頃の中量級は屈指の実力者揃い。楽なチューンアップ試合では世界への返り咲きは難しいと判断。強豪のみと対戦させルイシトに筋金を入れていく。
そんな前王者の対戦相手に選ばれたシンヌン、戦績は物凄いが真の実力は未知数だった。チュワッタナジムという名門の所属ゆえ、スター路線を強引に引かれ、楽なマッチメークで、いわば「作られた記録」である可能性は否定できない。だが、そんな疑問符を払拭するかのような素晴らしいボクシングを見せる。このタイ人は本物だったのだ。
第一ラウンド、ルイシト必殺の左ロングフックが早くもシンヌンを捉える。ロープまでふっとばされるダウン。動きも緩慢、あまりにも無造作に被弾するシンヌンに「噛ませ犬」の予感が漂うもここからが凄かった。
4回、かさにかかって攻めてきたルイシトの連打をブロックしながらタイミングを掴むと右ショートカウンター一閃。ルイシトが腰から崩れ落ちた。あまりにも見事なカウンター。ギリギリまで引きつけたタイ人らしくないコンパクトさ、角度、どれをとっても申し分ない一撃。あまりの見事さにラッキーパンチにしか見えなかったほど。
続く5回、それはとんだ勘違いだったことに気付かされる。ロープ際でまたもラッシュをかけてきたルイシトのアゴにさっきと同じタイミング、そして少し角度を変えた完璧な右カウンターがベストパンチとなって襲いかかった。半回転して倒れたルイシトの表情には諦めの色も。
ルイシトにとって幸運だったのはこのあとのタイ人に追い足がなかったこと。このピンチを凌ぐと8ラウンド、嵐のようなラッシュをかけて、タイ人を3度キャンバスに送り込み完全KO。元王者の意地を見せた。
一方、このあと戦線離脱してしまったシンヌンだったがこの一戦で見せた一瞬のきらめきが忘れられない。