拳を固めてサワディカップ2-2
5月24日、8時起床。屋上プールでひと泳ぎの後、ホテル近所の食堂でカオマンガイの朝食。スーツに着替えキツい日差しを浴びながらエカマイ駅へ。35度の猛暑に日本製のスーツはさすがにツラい。駅に着いた頃にはシャツはもう汗でぐっしょりだった。
サイアム駅から15分ほど歩き、待ち合わせのアジアホテルへ。歴史のあるホテルで重厚かつ立派なホテルだった。
2階の受付前のラウンジで青島親子と合流。コーヒーを飲みながら談笑していると、後ろから肩をポンと叩かれる。振り返るとチャッチャイがニコニコ笑っていた。列席者たちが続々と集まってきた。皆、きれいに着飾っていて、これから始まるイベントへの期待が高まった。
今回の目玉はやはり、3月に無敵王者、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)をニューヨークで判定に降し、WBCスーパーフライ級王座を獲得したシーサケットの一戦に尽きる。大きなプロジェクターに何度も歴史的一戦の映像が映し出され、参加者全員でタイのニューヒーローの誕生を感慨深く鑑賞した。
会場が暗転した後、開会のセレモニー。アジア地区でボクシングに貢献した関係者たちが表彰され、盾とWBCのミニベルトを授与される。マッチメイカーとして大活躍の青島氏も当然受賞。氏の丁寧かつ完璧な仕事ぶりと苦労はいつも近くで見ていたので、氏の受賞はことのほか嬉しかった。
パーティホールに結婚披露宴のように無数に配置された円卓があり、私の座るテーブルには青島親子やフィリピンのエロルデ氏、ブリコ氏やオーストラリアから来たというマッチメイカーたちが同席していた。各氏と名刺交換をして、今後のマッチメイクの交流を約束したが、私の未熟な英語ではジョークを交えて親睦を深めるまでには至らず、勉強不足を猛省した。現場で慌てなくてもいいように、普段の準備が大切だということを改めて痛感した。
いよいよメインイベント。シーサケットとWBCミニマム級チャンピオン、ワンヘン・ミナヨーティンの表彰。ふたりとも蚊の鳴くような小さな声でインタビューに答え、そのたびに起こる万雷の拍手に恐縮することしきりだった。
その後、フリータイムになったので、ワンヘン、シーサケットと写真撮影の後、ワンヘンの連続防衛記録、シーサケットの王座奪取のお祝いを述べて握手をした。ふたりとも信じられないくらい華奢で小さな拳だった。腰の低い王者ふたりだが、その顔は大仕事をやり遂げた誇りと自信に満ち溢れた、実にいい表情だった。アジアを代表する名王者である彼らの今後の活躍を祈りたい。
アジアホテルを出て、向かいのカフェで青島親子と、6月18日に来日する3人のタイ人選手について打ち合わせ。
日本にいるときには、甘すぎてとても飲めないタイのアイスカフェラテが猛暑のバンコクでは不思議なほど美味しい。何度もおかわりをしながら打ち合わせ終了。日本での再会を約束して別れた。
サイアム駅に着くと、雲行きが怪しくなり、傘を持たないタイ人たちでごった返し始めた。混雑時は日本のようなすし詰めを避けるため、何本もやり過ごさなければいけない電車を諦め、タクシーを拾う。
乗車後10分もしないうちにスコールが始まった。大通りはまだいいのだが、ホテル近くの路地はすっかり冠水しており、もはや車の運転ではなく、船の操縦のようだった。あちこちにプカプカ浮かんだ車があり、驚いたことにタイではこのくらいではニュースにもならないという。ホテルの前の道は特に低くなっており、運転手曰く、「ここから先は進めない。歩いてくれ」と衝撃の告白。新調したスーツと靴を下水が入り混じった真っ黒な水の中にヒザまで浸からせながらホテル到着。
シャワーを浴びて、チャン・ビールを飲みながら、授賞式のことを思い出していた。選手が主役である以上、我々裏方は表舞台に立つことはまずない。そんな裏方をキチンと表彰してくれる今回のようなイベントがあるということに驚いた。そして、それは我々裏方を奮起させ、一流の裏方になってやるぞ、というモチベーションを持たせてくれる。
1時間もするとすっかり雨も上がり、蒸し暑いながらも美しいバンコクの夕暮れ時がやってきた。