拳を固めてサワディカップ3-1
2017年8月、関ジムの会員のK氏からある相談をされた。
このK氏、たいへんなボクシングフリークで、本人もトレーニングを重ね、シニア大会で2階級を制覇するほどの実力の持ち主だ。
長男に、元WBCフライ級チャンピオン勇利アルバチャコフにあやかって、「勇利」と名付けたほど。
小学生の頃から勇利は関ジムで練習を重ね、U-15大会にも出場し、高校・大学もボクシング進学。気の強さやスピード溢れるボクシングは将来を期待させる有望株だったが、この時、そのスタイルに迷いが出始め、思うような結果を出せないスランプにあった。
「気分転換に武者修業に行かせてみたいんだけど、案内してくれないか」
二つ返事でOKした。
2017年9月5日3人でスワンナプーム空港に到着。エアポートレイル・リンクでパヤタイ駅に着いた後、タクシーに乗り換える。渋滞が本当にひどかった。10分に10mしか進まない。いくらタイのタクシー運賃が安いとはいえ、そういう問題じゃない。間違いなく歩いたほうが早い。タクシーを降り、少し歩いたところで信号の故障だと判明。改めてタクシーを拾い直すと先程の運転手だった。苦笑いをしながら乗り込み、スラサック駅裏のサトーン・セイント・ビューホテルに到着した。
荷物を置いた後、近くの屋台村で夕食。翌日からの練習スケジュールを打ち合わせながら、初日をビールで乾杯。激辛パッタイに舌鼓を打ちながら早めに就寝。
9月6日、我々の朝は忙しい。
ホテル最上階のジムでエアロバイクを40分。インターバルを入れながら足腰を鍛えさせる。10秒刻みにリズムを変えさせるハードな漕ぎ方を指示。せっかく異国の地に来たのだから、テンションを上げて練習させたい。
朝トレが終わると、隣にある屋上プールでひと泳ぎ。
チャッチャイから、バンコクに来てるんだろう?と連絡があった。ボクサーを連れてきてるから、チャッチャイのジムで練習させてほしいと頼むと思ってもない返事が返ってきた。
9月13日にWBOライトフライ級チャンピオン、田中恒成に挑戦する、パランポン・CPフレッシュマートがスパーリングの相手をしてくれるという。
午後3時、ARL(エアポート・レイルリンク)に乗り、ラムカムヘンまで。タクシーに乗り換え、ジムに着いた。
日本人に挑戦するタイ陣営としては、1mmも手の内を明かしたくないはずなのに、快くスパーリングの相手を快諾してくれる度量に敬服した。
18オンスのグローブを初めて見た。そういえば、海外のトレーナーの書を見たことがある。
日本で言う「拳の故障はハードパンチャーの宿命である」は海外では、トレーナーとしての「恥」なのだと。
「胸を借りるつもりでつっかかっていけ、格上に合わせていては何も勉強にならないぞ」
とゴングと共に勇利をラップラオのジムのリングに送り出した。
パランポンのボクシングは美しかった。翌日日本へ発つという事で軽めの最終調整だったが、要所要所で出鼻を挫くボクシングは見事だった。トータル4ラウンド、勇利もよく食い下がり、キャリアの差を実感したいい経験になったと思う。
帰りのタクシーに乗り込むと、運転手から、
「ボクサーだろ?」と聞かれた。
どうしてわかる、と聞き返すと、「昔、ムエタイのチャンピオンだったから、顔つきと雰囲気でわかるんだよ」と言われ驚いた。
明日も朝練。がんばろう。