拳を固めてサワディカップ8-2

10月20日、タオ君と屋台で朝食。巨大なムーサテー(豚串)が美味しかった。屋上プールでひと泳ぎした後、タクシーを手配し12:00にホテルを出発。高速道路はガラガラで、思ったより早くワークポイントスタジオに着いた。

ロビーでくつろいでいると、チャチャイやビーさん、小田さんもやってきたので、みんなでコーラを飲みながら談笑。これから始まるWBCアジアタイトルマッチの勝負予想をしていたら、平仲マネージャーから声をかけられ、チャンピオンのバンテージチェックに立ち会ってきて欲しいと頼まれる。

チャンピオンの控室に行き、関係者たちに挨拶。ハードパンチャーらしく、ナックル上のバンテージのクッションがかなり大きめだった。我々日本式の神経質なまでの丁寧なテーピングとは違い、実に簡易的な仕上がりで、細かいことは気にしないタイ気質を感じさせるものだった。ナックルのチェックをしたが、特に異常もなく、あっさりOKした。

荻堂君の控室に行き、ウォーミングアップに付き合う。助っ人で同行している中真会長の構えるミットに繰り出すパンチは実に切れがいい。スピードもあり、仕上がりはとても良さそうだ。タイトル奪取への期待が高まる。

リングサイドの関係者席に案内され待つこと10分。いつものド派手なオープニングの後、第1試合のメインイベント、WBCアジア・ライトフライ級タイトルマッチが始まった。

1ラウンドから突進しようとするポンサクレックに、荻堂君は巧みなフェイントやカウンターを使い、緊迫した立ち上がり。中盤までそんなにらみ合いが続き、静かな展開に終始する。互角のラウンドだが、ここはチャンピオンのホームリング。観客や実況解説のポンサクレック寄りの声援のため、互角の展開ではチャンピオンにポイントが積み重ねられているだろう。

5ラウンド過ぎ、打開を図る挑戦者が積極的に攻めて出る。効果的なカウンターが当たるが、慎重策が過ぎるのか、後続打が出ない。

後半戦、覚悟を決めた両者が打ち合いに出るが、クリーンヒットは少なく、勝負は判定に持ち込まれた。予想通りの0-3のスコアでチャンピオンの防衛成功。善戦むなしくタイトル獲得はならなかった。

控室の荻堂君やスタッフは判定に不服そうだったが、敵地での判定ということを考えれば妥当なスコアだろう。残念な結果だったが、世界レベルと互角に渡り合える実力は十分に証明したと思う。捲土重来に期待したい。

 

リングサイドに戻り、アンダーカードの試合を観戦していると、この興行の主催者、ナコンルアンプロモーションのボス、スチャートさんが隣に座ってきた。ワイ(合掌)をして挨拶すると、

「君は日本のマッチメイカーだったかな?」

と言って名刺をくれた。

現在モロッコやインド、フィリピンの選手のマネージメントをしているが、彼らをスチャートさんの興行で使ってもらえないかというお願いを、ビーさんや小田さんに通訳してもらった。

「選手のプロフィールをメールで送ってきなさい。それを見て検討する。一度、事務所に遊びに来るといい」

近いうちにしっかりとした資料と企画を持って伺います。ぶしつけなお願いに快く対応くださり感謝いたします。

 

小田さんとタクシーに同乗してバンコクに戻ると、フワイクワーンのタイレストランで食事。大志君も呼び出し、ビールやラムで乾杯した。スチャートさんへのお願いの件を大志君に話すと、

「スチャートさんの息子は僕の高校の先輩なので、よく知っています。スチャートさんは、WPボクシングを国際色豊かにしたいと思っていると聞きました。充分に実現可能な提案だと思いますよ。できることは力になります。うまくいくといいですね」

と、心強い後押しをもらった。

選手とマネージャーが外国人同士。そんな二人がさらに違う国で試合をしようという無謀な試みだが、乗りかかった船だ。当たって砕けろの気持ちで、選手たちのために頑張ろう。

私のような、まだまだ力のないマネージャーには、これからもいろんな困難が待っていると思う。焦らずに、確実に、そして誠実に、一歩一歩積み重ねるしかない。大都会バンコクの高層ビル群の下、人波でごった返す雑踏を歩いていると自分がひどく小さなものに感じる。

「下を向いちゃいけない。前を向くんだ」

ジュライホテルのデタラメな住人たちの言葉を思い出した。

あの言葉はまだ若い私への説教だったのか、それとも修復不可能になってしまった自分への願望だったのか。

 

前を向いてがんばろう。