拳を固めてサワディカップ8-3

10月21日、遅い起床だったので、朝食抜きで、サイアムのMBKに買い物に行く。涼しかったので、BTS(高架鉄道)には乗らずに、トゥクトゥクで移動。200B(600円)という運転手に、

私「100B(300円)で行けるだろう」

運転手「いや、180B(540円)だ」

私「これで最後だ。150B(450円)しか払わない」

運転手「OK。150B(450円)だ」

と、どうでもいい値段交渉をした。

冷房がよく効いたMBKの買い物はとても快適だった。Tシャツや、ボールペン、お香などの小物のお土産を買い、フードコートのカフェで一息。フロアの一角に出店している似顔絵屋に似顔絵を書いてもらった。なかなかいい出来で、料金とは別に、お礼のチップのつもりでお茶に誘った。話を聞くと、彼は,イラストレーターを目指していて、月に3日ほど、あちこちのモールや市場で、似顔絵屋を出店して、生活費を稼いでいるという。夢が叶うといいね。

 

ホテルに戻り、昼食を取り、プールで1時間泳いだ。日差しが弱いので、少し寒いくらいだった。プールサイドのベンチで一眠りし、気がつくともう14:30。昨日はバタバタして、あまりチャッチャイと話もできなかったので、ジムに遊びに行こう。タクシーを手配して、ラッサワイに向かう。

 

ジムは大盛況だった。ダイエット目的の若い女性や、小さな子どもたちが熱心にレッスンを受けている。チャッチャイも選手たちも指導に追われているようなので、トレーニング着に着替えて汗を流すことにした。サンドバッグを叩いていると、2017年4月、井岡一翔のWBCミニマム級タイトルに挑戦したノックノイが、マスボクシングをしようと声をかけてきた。

ノックノイはスピードはなかったが、そのディフェンステクニックはさすがだった。暖簾に腕押しと言おうか、パンチが当たっても、全く手応えがない。相手のモーションを読む目の良さと、柔らかい身のこなしの為せる技なのだろう。ならばと、色々なフェイントやプレッシャーを駆使して、追い詰めようとしたが、見事に空回りさせられた。井岡には完敗したノックノイだが、世界ランカーの実力は健在、世界はまだまだ広いと実感した。

 

シャワーを浴びて扇風機の前でくつろいでいると、指導が終わったチャッチャイがサイダーを持ってきてくれた。ジム運営が安定してきたせいか、終始、上機嫌だった。昨日の試合を振り返り、技術論を語り合った。さすがは、元ソウルオリンピックの代表選手にして、元WBC世界フライ級チャンピオン。試合に勝つには、個々のテクニックだけでなく、ゲーム展開や駆け引きも必要だと、世界レベルの様々な細かな奥義を教えてくれた。

「タイトルを取られたマニー・パッキャオ(比)戦では、それは通用しなかった?」と聞くと、笑いながら、

「アイツは化け物だった。持っている技術を総動員して、7ラウンドまではうまくさばいていられたけど、いつか捕まるだろうと思っていた。ヤツのボクシングはスケールが違った。案の定、8ラウンドで倒されたよ。あれは規格外の強さだった。今では、彼のような選手とグローブを交えた事自体、誇りに思っている」

と懐かしそうに話していた。

パッキャオはチャッチャイからWBCフライ級王座を強奪した後、スーパーウエルター級までの7階級を制覇し、世界的なスーパースターに昇華した。そんな怪物と対戦したチャッチャイから、当時の話を聴けるのは実に貴重な体験であり、ありがたいことだった。

 

バンコクに戻り、ナナのソイ4の屋台でクイッティアオを食べていると、買い出しに出て来た、ナナプラザのおばちゃんバーテン、バンイェンから肩を叩かれ、「新人のバーテンダーが入ったから、顔を見に来なさいよ」、とナナプラザに引っ張り込まれた。明日は帰国だが、深夜便のフライトまで予定もないし、これから何の約束もない。どうせなら派手にやるか、と新人ちゃんはもちろん、バーテンダー全員にノンストップでビールを振る舞い、閉店まで馬鹿話で飲み明かした後、近所のライブバーで二次会。最後は、通りで退屈そうに客待ちをしている、トゥクトゥクの運転手たちも巻き込んで、みんなで大騒ぎ。生バンドが演奏するビートルズを、デタラメな歌詞で大合唱して、楽しい夜は更けていった。