拳を固めてサワディカップ9-3

1月14日、9:00起床。BTSアーリー駅まで歩き、バイキング形式のレストランで朝食。近所に住んでいるという、可愛い子供二人を連れた若い夫婦から、

「一人でバイキングなの?みんなで食べたほうが、色んなものを食べられるから、相席しない?」

と声をかけられ同席させてもらう。

パクチーがたっぷり入ったトムヤム鍋が美味しかった。旦那さんはタクシーの運転手をしていて、奥さんはMBKで販売員。週末の家族での外食が唯一の楽しみだという。人懐っこい子どもたちと、愛情溢れた働き者の両親に囲まれて、実に楽しい朝食だった。

ホテルに戻り、仕事の整理。今年は会社の求人も増やし、大幅な業績アップを企んでいる。リスクを先回りで予測して、スムーズに業務が回るよう、段取りにたくさん時間をさこうと思っている。年始めの気の引き締めに徹底をしたい。

気がつくともう昼過ぎ。プールで泳いで日光浴。ひと眠りした後、マイラヤーがいるオカマ・マッサージへ。

今日帰国だと言うと、

「FACEBOOKでプロフィールを見たわよ。あなた、6日が誕生日だったじゃない。バンコクに来ているのは知ってたから、今日あたり連絡して、今晩お祝いをしようと思ってたのに。今日のマッサージは無料でいいわ。誕生日プレゼントよ」

と、残念がられて嬉しかった。2時間の気合の入ったマッサージ、最高でした。マイラヤー、ありがとう。

 

16:00、ホテルをチェックアウトして、タクシーを手配。ビーさんのTジムへ向かう。17:00到着の予定だったが、高速道路はまれに見る大渋滞。スチャートさんをお待たせしては大変と、ビーさんに「少し遅れます」と電話してみると、「全然問題ないです。日本人は時間に神経質ですね」と一笑され、ひと安心。

 

Tジムに着き、併設する自宅でお茶をごちそうになりながら、これから会うスチャートさんとの会合の打ち合わせ。ビーさんに通訳をしてもらうため、こちらの意向を細かく説明。

「チョーク ディー ナ当たって砕けましょう」

と、笑うビーさんの笑顔が頼もしかった。

 

18:00、ノンタブリーのナコンルアンプロモーションジムに着いた。

頑丈な扉の前で、インターフォンのボタンを押すと、スタッフがおずおずと扉を開けてくれた。中に招き入れられて驚いた。公式サイズの立派なリングが2つ。広々とした素晴らしいジムだった。

あまりの立派さに呆然としていると、4月26日にファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)との防衛戦を控えている、WBCスーパーフライ級チャンピオン、シーサケット・ソー・ルンヴィサイが挨拶に駆け寄ってくれた。去年のWBC表彰式以来の再会だった。

「調子はどう?」と聞くと

「最高です。かつて噛ませ犬だった僕にも、こうして世界の頂点に立って、やっとチャンピオンの自覚が出てきました。このベルトは誰にも渡しません。この後、スパーリングをするので、ぜひ見ていってください」

引き締まった、いい表情だった。

 

ジム奥にある事務所に通され、スチャートさんと再会。

こちらの意向を伝え、ナコンルアン・プロモーションの希望や今後の展望を聞いた。

スチャートさんの話はとても腑に落ちるものだった。

「ボクシングのプロモーションは簡単なものじゃない。スポンサーの意向も考慮しなくてはいけないし、視聴者や観客にいいものをお見せしなくてはいけない、そのために我々は大いに苦労をする必要がある。これまでも、そして、これからもだ」

真剣な眼差しで大物プロモーターの苦心を話してくれた。私の選手についても、

「デビュー戦のモロッコ選手は、組んであげられない。うちの眼鏡に敵うようなキャリアを君が作りなさい。話はそれからだ。フィリピン、インドネシアあたりの選手の採用は前向きに検討しよう。しっかり管理して、いい供給をできるマッチメイカーになりなさい」

と、ありがたい言葉を戴いた。

「これから、シーサケットがスパーリングをするから、ぜひ見ていってくれ。ただし、動画の撮影はダメだよ」

スチャートさんはニヤリと笑って、我々をジムに案内してくれた。

 

シーサケットのスパーリングは圧巻だった。

2ラウンドずつ相手を変え、分刻みでテーマを変え、自身のボクシングを貪欲に磨き上げている。世界一のトレーニングを目の当たりにして驚くとともに、世界のトップクラスの取り組みは、実にシンプルなものなんだと、改めて思った。瞬間の努力、継続の努力の賜物だと。

 

ドンムアン空港へ向かう道中、今日の尽力のお礼に、ビーさんをリバーサイドレストランに招待した。緊張から解放されたためか、ほんの少しのビールで一気に酔いが回ってしまった。

 

帰りのフライトはぐっすり眠れそうだ。