拳を固めてサワディカップ11-3
4月20日、9:00起床。ラマ4世通りを散歩して、小腹がすいたところで、MRTクロントーイ駅近くの屋台で朝食。20B(60円)のクイッティアオが美味しかった。屋台のおばちゃんが、ガイトート(鳥の唐揚げ)をサービスで出してくれたが、その代わりに店の前に放置された原付バイクを撤去するのを手伝わされた。お安い御用ですよ、と10台ほどのバイクを路地の角まで移動する。10分もすると、もう汗だくだ。おばちゃんが笑いながら、扇風機前の席を用意してくれて、コーラをごちそうしてくれた。コップン・マクマーク(どうもありがとう)。
プールで泳いで、日焼けタイム。今日は日差しが強い。ウッドデッキが鉄板のように熱く、強力な岩盤浴の上にいるようだ。昨日、飲みすぎたから、汗出し・酒抜きには丁度いい。1時間ほどで気分もスッキリ。サウナでの汗出しよりも断然気持ちよかった。
13:30、小田さんがホテルに迎えに来てくれた。彼の運転で一路、ワークポイントスタジオへ。高速道路は渋滞もなく、1時間もかからずに到着した。
ラウンジでくつろいでいると、チャッチャイのジムのセコンドのリンがやってきた。チャッチャイは急用ができて、今日は来れないという。控室へ呼ばれ、レックのバンデージを巻いてほしいという。練習中に手首を痛めたから、それを補強するような巻き方をしてほしいとのことだった。
タイのテーピングは粘着力がとても強く、拳を固めるのには最高だと以前から思っていた。アンカーが作りやすく、思った方向に手首を固めることができる。今回たくさん購入して、日本でも使ってみたいと思う。
同じ控室のずんぐりした選手が、
「いい巻き方ですね。パンチも打ちやすそうです」
と覗き込んできた。
振り返ると、その選手は、2014年9月、WBCライトフライ級チャンピオン井上尚弥(大橋)に、2016年12月には、IBFライトフライ級チャンピオン八重樫東(大橋)に挑戦したことのある世界ランカー、サマートレック・ゴーギャットジムだった。
「随分太ったね。今日のウエイトは?」と聞くと、
「バンタムです。もう前ほど体重が落ちないんです」
と、恥ずかしそうに笑っていた。
メインイベントの第一試合、注目のチャイノイは圧巻の強さで楽勝。荒削りだが、若さに任せた思い切りの良い攻撃で、今後の伸びしろを大いに感じさせるいい選手だった。スチャートさんが期待するのがよく分かる。元WBCライトフライ級チャンピオン、サマン・ソー・チャトロンを彷彿させる噂通りのハードパンチャーだった。
レックは手首をかばった覇気のない試合で、セコンドのリンが一生懸命、叱咤激励するも、消化不良の判定負け。
「チャンスはまた作ってあげるから、しっかり練習するんだよ」
心技体の意味を丁寧に教えて励ますと、オドオドとした表情に、ほんの少し笑みが戻った。
サマートレックは、駆け出しの若いボクサーを相手に、レッスンをつけるような省エネボクシングで、難なく判定勝ち。彼の本来の力を考えると、物足りなかったが、彼ももう34歳。引退まで、このまま消化試合を続けていくのかと思うと、少しさびしいものを感じた。
リングサイドでアンダーカードを観戦していると、セコンドをしている元WBAスーパーフェザー級チャンピオン、ヨーサナン・3Kバッテリーがいた。”リトル・タイソン”の異名をとったハードパンチャーは、相変わらずの引き締まったいい体をしていた。声をかけると、
「不動産の仕事をしながら、後輩の育成をしているんです。頑張っていい選手を作ります」
と、張り切っていた。
スタジオを後にしようとすると、リンが駆け寄ってきた。
「明日の夜に帰るんでしょう?帰る前にジムに来てください。チャッチャイが待ってます」
「了解。空港に行く前に寄るよ。今日は残念だったけど、腐らずに選手のやる気を出させるような指導をお互い勉強しよう。負けた時が大事だよ」
握手をして別れた。
小田さんの車に乗り込み、トンローに向かう。道中、交通違反で警察に停められたが、小田さんは窓を開けて、おもむろに500B(1500円)を警官に渡す。すると何事もなかったかのように、行ってよしとのこと。噂には聞いていたが、目の当たりにしたのは初めてだった。
車を置いて、彼の自宅前のレストランで夕食。今日の試合のことや、お互いの仕事のことを語り合った。タイ在住歴の長い小田さんから興味深い現地での話をたくさん聞かせてもらっていたが、この店は蚊が多く、ウエイトレスがスタンガンのような虫よけの電極棒を、バチバチと我々のそばで振り回すので、もう一つ話に集中できなかった。
場所を変え、トンロー駅近くの日本人向けカラオケスナックへ。小田さんの歌のうまさにびっくりした。貸切状態の店で、2時間ほど他愛もない話をしながら、ホステスたちみんなと何度も乾杯した。
4月21日、午前中は、お土産の買い物に行った後、ヨッカオジムに顔を出した。ジムは珍しく閑散としていて、お茶をごちそうになりながら、隣接する事務所でムエタイのビデオを眺めながら過ごした。昼過ぎからは、プールサイドで、ハイボールを飲みながら日焼けタイム。今日も日差しが強い。現地人のように真っ黒になってしまった。
16:00、GRABアプリでタクシーを手配してササークンジムへ。
チャッチャイとアイスコーヒーを飲みながら、今後の選手の育成方法やスポンサードの金額などを打ち合わせ。いくつかの提案をしたが、チャッチャイは、
「すべて了解だ。何も問題はない。昨日レックは負けてしまったけど、選手はいくらでも調達できる。その中からダイヤの原石を見つけよう。スポンサーになってくれたのは本当にありがたいが、それに甘えすぎることのないように心がけている。これからもいい関係でいよう」
と、気を緩めないチャッチャイを見ていて、こちらも気がさらに引き締まった。