拳を固めてサワディカップ12-1

前回の帰国後すぐ、朗報が飛び込んできた。

2019年5月31日、タイの郊外都市、チャチェンサオで、WBCミニマム級チャンピオン、ワンヘン・ミナヨーティン(タイ)対福原辰弥(本田F)のリマッチが決定したという。両者は2017年11月にナコンラチャシマーで対戦し、王者ワンヘンが判定で逃げ切り、8度目の防衛に成功した。

タイトル奪回に燃える福原と、冴えない試合が続き、ファン離れやテレビ局の放映への難色もあり、現在、そのモチベーションは、格段に下がっていると噂されるワンヘン。福原がリベンジを果たすとともに、海外でのタイトル奪取という快挙をぜひこの目で見たいと、いても立ってもいられず、気がつくと航空チケットとホテルを予約。日本での仕事を前倒しで片付け、出発の日を待った。

 

5月29日、9:45、福岡空港からSL315便でドンムアン空港へ向かって飛び立った。

最近は慣れたもので、前日に夜ふかしをして、寝不足の状態で飛行機に乗り、機内で熟睡するようにしている。今回もぐっすり休んでいたら、20分も早くバンコクに到着。イミグレーションはガラガラで、スマホのSIMもすんなり買えた。

空港を出ると、この最近でまれに見る暑さだ。灼熱と言ってもいい。立っているだけで汗が吹き出してくる。喫煙所で一服した後、タクシーを拾う。

 

20分ほどで、セーナー・プレイスホテルに到着。チェックインして荷物の整理をしてから、プールで泳ぐ。50mはあろうかという、広々とした貸し切りのプールは最高だった。

近所のコンビニで飲み物や、洗剤などの買い出しをしていると、友人の通販会社社長のNさんから電話。夕食のお誘いをいただいた。19:00にナナ・ホテルで待ち合わせることにした。

はしご酒が大好きなNさんとの夜は長い。今日も深酒になりそうだ。明日のワンヘン=福原戦の計量に行くので、念の為、ラチャテーウィのマイラヤーがいるオカマ・マッサージ屋に行き、肝臓のツボやリンパ回りをしっかりとマッサージしてもらう。いつものことだが、彼女のマッサージは相性がいいのか、日頃の疲れがきれいに吹っ飛んでしまう。

これで準備万端だ。

 

久しぶりに会うNさんとナナ・ホテル前のオープンバーで乾杯。テーブルいっぱいの料理に舌鼓を打ちながら、お互いの近況報告。Nさんは買付けも販売も絶好調で、今回は骨休めに、仕事抜きで、遊びに来ているのだという。羨ましい限りだ。いつか手を出そうと思っている、ネットショップ経営のノウハウを教えてほしいとお願いすると、

「お安い御用ですよ。ただ、かんたんに説明できる内容じゃないから、今日はしっかり付き合ってもらいますよ」

と、ニヤニヤ笑って言った。

 

ショットバー、日本人スナック、ゴーゴーバー、オカマバー、ゲイバーと、ナナやパッポンのあらゆるジャンルの店に連れ回され、解放されたのは深夜1:00。へとへとになってしまったが、ネットショップ経営のコツから陥りがちな、落とし穴まで、丁寧に教えてもらい、実に勉強になった。

 

5月30日、8時起床。マイラヤーのマッサージのおかげで二日酔いはなし。ホテル内のジムで筋トレをした後、プールで軽くひと泳ぎ。9:00にGRABアプリでタクシーを手配する。

ウォンウェンヤイにある、ウィチャイウェート病院で11:00から計量だが、タクシーがなかなか来ない。やっと到着したのが10:15分。

「ウォンウェンヤイまでどのくらいかかる?」と聞くと、

「渋滞にもよるけど、1時間ちょっとかな」

「それはマズい。チップをはずむから11:00前には到着してほしい」

そう言うと、

「OK」

すぐに高速道路に乗り、狂ったようなスピードで爆走。40分足らずで到着してくれた。チップは奮発して300B(900円)。

 

ウィチャイウェート病院に着き、計量会場で福原選手や本田会長に挨拶。前回より福原君の顔色、肌ツヤがいい。一方、ワンヘンは、顔色が悪く、体が一回り小さく見える。案の定、計量後の検診でワンヘンの体温は37.1℃だった。

関係者たちと一緒に会議室でルール・ミーティングに参加。試合会場はいつものオープンエア。気温の高さを考慮してか、やたらと健康面の重視を強調する不自然なミーティングだった。後で思えば、この時、気づくべきだったのだが、この日の両者の仕上がりからは、「福原、勝機あり」としか考えられなかったから、そこまで気にかけることをしなかった。不明を恥じるばかりだ。

 

病院を出ると、昨日の疲れがどっと出てきた。タクシーでウォンウェンヤイ駅まで行き、BTS(高架鉄道)でサラデーン駅へ。タニヤのバー、RESPECTONに行くと、マスターが食事の新メニューを試作しているところだった。フライドチキン、スパゲティ、どれも美味しかった。明日に備え、今日はノンアルコール。従業員のボーイたちとコーラで乾杯。人懐っこい笑顔のビッグ君に1時間ほど、タイ語をレッスンしてもらった。

 

ホテルに戻ったのは21:00。昨日Nさんに教わったネットショップ経営のノウハウのメモを読み返していると、10分もしないうちに眠ってしまった。