拳を固めてサワディカップ12-2


5月31日、9:00起床。プラディパッド通りに出て、クイッティアオ屋で朝食。食後に隣りにあるタイマッサージ屋で1時間ほぐしてもらう。首の疲れがきれいに取れた。

ホテルのジムで筋トレした後、プールで30分泳ぐ。天気もよく気持ちが良かった。

11:30、小田さんが車で迎えに来てくれた。高速道路に乗り、一路チャチェンサオへ。渋滞もなく、予定通り2時間弱で到着した。

控室のテントに行き、関係者や福原選手に挨拶。福原くんの顔色もよく、肌ツヤもいい。目つきも鋭く、この試合に対しての精神の集中や充実がはっきりと見て取れる。王座奪取への期待が高まった。

15:00スタートのはずが、テレビ放映の都合で1時間繰り上がる。あわてて準備やウォーミングアップに取り掛かるが、支給されたグローブが見当たらない。関係者総出で探し回っていたら、20分ほどで見つかった。主催者側の人間が、グローブを勝手に倉庫にしまっていたという。チャンピオン側の陽動作戦とは思いたくないが、大事な試合前にイライラさせられる一幕だった。

リングインしてから、タイの世界戦特有の、関係者やスポンサーの紹介が、延々と繰り返される。37℃はあるリングの上で、20分ほど待たされることになる。福原くんは集中力を切らすことなく、引き締まった顔をしていたが、ワンヘンに目をやると、目に力もなく、リング上の暑さにすでにバテている様子。

 

試合開始のゴングが鳴った。お互いに手の内を知っている者同士、様子見もなく、初回からキビキビとしたボクシングを展開。やはりワンヘンに体からみなぎるエネルギーが感じられない。

2回、頭がぶつかって福原の左目上がカット。傷は長く深く、福原は以降、2度のドクターチェックを受けることになる。

一進一退の攻防が続く。福原が仕掛け、ワンヘンがこれを受ける展開。ほぼ差のない互角の試合内容だが、敵地であることを考慮すると、各ラウンドの採点はワンヘンに傾いていると考えていいだろう。福原の傷の出血は治まっている。旺盛な闘志によるアドレナリンのおかげだろう。

8ラウンド、再びバッティングが起こり、今度はワンヘンの右目上がカット。大したカットではなかったが、ワンヘンは続行の意思を見せない。出血もなく、充分に続行可能な状態に思われたが、レフェリーはあろうことか、ドクターのところではなく、ワンヘンを自コーナーに連れていき、ワンヘン陣営に続行させるかどうかの相談をしている。

脱水症状を起こしたワンヘンを救済する目的の悪質なレフェリングだった。昨日のルールミーティングが脳裏に蘇る。うがった考えかもしれないが、事故防止の大義名分を振りかざし、ワンヘン側の都合のいいところでストップをかけ、タイ側選手が有利になるような試合を作る魂胆にしか見えなかった。

試合はここでストップ、負傷判定により、3-0の判定でワンヘンの11度目の王座防衛となった。

試合後のワンヘンは疲労困憊で、控室の椅子に座り込んだ。王者の関係者も

「あそこでストップがかかったおかげで助かった。続けていたら危なかった」

と安堵のため息を漏らしていた。

声援の効果などで、判定が地元選手に有利に働くのはこれまでも見たことはあるが、試合の進行自体が、ホームの選手に有利に働くようでは、もはやスポーツとは言えない。そもそもタイでは、テレビCMの都合で、「ラウンド間のインターバルは1分間」というルールが守られていないことがほとんどだ。ひどいときは2分以上もインターバルがあるラウンドも見たことがある。今回福原陣営は大騒ぎしなかったが、この運営体質はいつか世界的に大きな問題になるだろう。

バンコクに戻ったときには、試合の後味の悪さも手伝って、どっと疲れが出た。

 

ホテルに戻るとすぐ、Nさんから電話があり、「ボクシング体験をしてみたいという日本人の友人を今から連れて行く。これからボクシングジムに連れていってくれないか」とのこと。

急遽、チャッチャイに連絡を取り、OKをもらうと、ホテルに到着したNさんとIさんをタクシーに乗せて、ラッサワイへ。

気合十分のIさんをペットとヨードモンコンがミットを持って指導してくれた。普段は三重県でバイクレーサーをしているIさんは初めてとは思えないほど、センスも体力も抜群で、1時間みっちり、音を上げることなくボクシングトレーニングを満喫していた。

来月日本で世界タイトルマッチを控えている、サタンムアンレックと4ラウンドミット打ちをした。プレッシャーのかけ方、追い詰めるときの足さばきなどを中心に、徹底的に指導した。

練習後、みんなでコーラで乾杯。

「東京での世界戦は、必ず勝ってみせます。準備は万端です。僕が世界チャンピオンになるところを見届けてください。東京で会いましょう」

サタンムアンレックは力強く語っていた。

 

3人でバンコクに戻ると、ナナのアイリッシュバーで食事。大きなブリトーをビールで流し込み、とりとめのない話で盛り上がったところで、いつものナナプラザへ。明日も予定があるから、早く帰りたかったが、はしご酒の鬼、Nさんに通用するはずもなく、結局2:00過ぎまでしっかり付き合う羽目になってしまった。