ベストパンチ3

1996年2月3日 米国 カリフォルニア州

WBOスーパーバンタム級タイトルマッチ
チャンピオン マルコ・アントニオ・バレラ(メキシコ)TKO12R 挑戦者 ケネディ・マッキニー(米国)

当時、78戦無敗のメキシコの英雄、フリオ・セサール・チャべスの後継者として実力・人気ともに急上昇の若きアイドル、バレラにソウルオリンピックバンタム級金メダリストであり、元IBFスーパーバンタム級チャンピオンのマッキニーが二つ目のベルトを狙って挑んだ壮絶な一戦。

IBF王者時代にはそのテクニックに走りすぎ、エキサイティングな試合とは無縁でファンからの支持もイマイチだったマッキニー。だが、この試合開始20秒、技術のみでは昇り竜のバレラのパワフルなアタックは捌けないと覚悟を決め、早くも白兵戦に打って出た。

バレラも打撃戦は望むところと豪快な左右を打ちまくるが、マッキニーは荒々しさ一本やりのバレラの若さ・拙さの隙をつき、インサイド・アウトサイドから巧みな強打で応戦。徐々に主導権を握っていく。

これまで圧倒的な勝利のみを収めてきたバレラは、ほとんど初めて経験する苦しい戦いに対しての打開策に乏しく、勝利どころか番狂わせのKO負けの雰囲気さえ漂ってきた。

しかし、そこはメキシカン。迎えた8ラウンド。ハイペースが祟りマッキニーがやや失速した一瞬の隙を見逃さず暴風雨のような連打を畳み掛けて2度のダウンを奪う。

ダメージありありのマッキニーは、何とかこの回はしのいだものの、続く9ラウンドまたもダウン。

やはりニュースターの勢いがベテランを押し切ってしまうかに見えた11回。マッキニーが最後の閃きを見せる。

勝利を確信したバレラが一発狙いとなり、手数が減って単調にステップインした瞬間、今回のベストパンチが炸裂した。

タップダンサーのように数センチ単位で後ろ足を踏み変えたマッキニーの右ショートカウンターが真正面からバレラのアゴを直撃した。

糸が切れたマリオネットのように真下に崩れ落ちた若き王者。

マッキニーのボクシング人生の集大成を見るかのようなスピード、タイミング、そして心の綾までも読みきった完璧な一撃だった。

しかし、バレラがタフすぎたのか、マッキニーのあともう少しのパワーがすでに過去のものとなってしまっていたのか、ここで試合は終わらなかった。

最終12ラウンド。もはや全てを出し切ってしまったマッキニーに若いバレラが猛然と襲い掛かる。2度3度と倒されマッキニーの王座返り咲きはならず、バレラがタイトルを防衛した。

この後、バレラは数々の名勝負を演じる名王者へと羽ばたいていくのだが、この試合がバレラに与えたものは決して小さくはなかったはずだ。

一方、オリンピックでメダリストとなった後、アルコール、麻薬のリハビリで遠回りをしたマッキニーがもし、順風満帆なプロ生活を送っていたならスーパースターの道を歩んでいたことだろう。

だが歴史にはこう記される。

BARRERA TKO12R McKINNEY.