拳を固めてサワディカップ13-2

世界戦敗北のショックも癒えないまま、7月5日、福岡空港から韓国・釜山へと出発した。

釜山でトレーナーをしているフィリピン人、ジャンノから、日本製のパンチングミットがほしいと頼まれていた。

郵送で送ってもよかったが、せっかくだから、直接手渡して、交流を深めるのも悪くないと、渡韓することにした。

 

LCCのジンエアーで1時間足らず、あっという間に金海国際空港に着いた。東京に行くよりも早いわけだ。なんだか外国に来た気がしない。高架鉄道に乗ってホテルのあるルネシテへ向かう。グーグルマップを頼りに、ルネシテ駅から南へ20分ほど歩くと、工業地帯にぽつんと立っているホテルはどう見ても元ラブホテルだった。

部屋はすべて鏡張りで、風呂もガラス張りで丸見え。ここで3日間過ごすのかと思うと気が重くなったが、まぁ、仕方ないか。我慢できなくなれば、中心部のホテルに転宿する手もある。

ジャンノに連絡すると、今ジムにいるから、早速向かってほしいとのこと。ルネシテ駅に戻り、高架鉄道で沙上駅に向かう。沙上駅から乗り換えて西面駅へ。路線図は英語や日本語表記だったので、乗り換えは簡単だった。西面駅からさらに地下鉄に乗り換え、楊亭駅で降りる。10分ほど歩いたところにジムはあった。

こじんまりとしているが、よく整頓されたキレイなジムだった。まだ昼の3時だというのに、プロの選手やアマチュアボクサー、フィットネス会員たちが熱心に汗を流していた。ジャンノからみんなに紹介され、6人ほどの選手たちに、1時間みっちりコーチする羽目になってしまった。

蒸し風呂のような暑いジムで、ヘトヘトになってしまったが、ミット越しに見える彼らの目が、とても真剣な眼差しだったので、思わず嬉しくなって指導にも熱が入った。この中から、いつかトップシーンで活躍する選手が出てくるかもしれないと思うと、こちらもつい熱くなってしまう。

指導後、会長室で冷たいお茶をごちそうになりながら、朴会長と今後のマッチメイクの展望を語り合った。今、韓国はコミッションが乱立する混沌とした状態だそうだ。

「今はあまり良くない状態だけれど、近いうちにすべての問題が解決して、韓国ボクシング界は必ず再び活性化するはずだ。政治的なことはわからないが、我々現場の人間は余計なことは考えず、いつか来るその時のために、毎日の指導に精を出すしかない。今は辛抱する時期だと思っている。世界のボクシングのためにこれからもいい関係でいよう」

ここにもボクシングに情熱を捧げる真摯な職人がいた。

 

帰国後、大急ぎで仕事を片付け、7月17日、SL315便で福岡空港からドンムアン空港へ向かう。

超満員のイミグレーションを抜けて、いつもの喫煙所で一服。今日も暑くなりそうだ。

タクシーを拾い、サトーンにある、ピナクル・ルンピニパーク・ホテルへ。今回は高速道路を使っての移動が多いので、インターチェンジに近いホテルにした。部屋も広く、屋上プールも快適。何より嬉しかったのは、ホテルにサウナが付いていることだった。

早速プールでひと泳ぎして、ミストサウナへ。プールとサウナを何度も繰り返したところで、頭も体もスッキリ。夕食に出かけようとしていると、ノックから電話があった。ちょうど仕事が終わったというノックとシーロムで待ち合わせて、パッポンのオープンバーに行くことにした。

ビールで乾杯したあと、お互いの近況報告。来月、美容師の昇格試験があるから、毎日勉強で大変だと話すノックは、充実したいい顔をしていた。2次会はいつものRESPECTON。早い時間にも関わらず、店は大盛況でマスターも従業員のビッグ君もてんてこ舞いの忙しさだった。手をわずらわせるのも悪いと思い、手酌できるように、焼酎をボトルでキープ。初めて焼酎を飲むというノックは、よほど口に合ったのか、いつものようにガブガブと飲み始める。あっという間に一本空いてしまい、追加でもう一本。こちらの物価ではビール一本、コンビニ価格40B(120円)ほどだが、日本の焼酎をキープすると一本1500B(4500円)と日本よりも高い。この金額は現地のタイ人の日当の倍近い額らしく、ビッグ君も

「お金持ちなんですね」

と笑っていた。