拳を固めてサワディカップ13-5

7月20日、9時起床。プールで泳ぎ、近所の屋台でカオマンガイの朝食。たっぷりと日光浴をした後、スリウォン通りにある、行きつけのタイマッサージに出かけた。今日は少し奮発して120分コース450B(1350円)。全身しっかりとほぐしてもらい、コンディションはバッチリ回復した。

マッサージ屋の向かいにあるカフェでのんびりしていると時刻はもう12:00。ホテルに戻り、支度をして、タクシーを手配する。さすが、オフィス街近くの幹線通り沿い、タクシーはすぐに到着した。

行き先はワークポイントスタジオ。最寄りの高速ランプから一路ランシットへ。爆音でお経が流れる奇妙なタクシーに揺られること1時間、着いたときにはすっかりくたびれてしまった。

関係者控室に行き、スチャートさんに挨拶。

「チャイノイの調子はどうですか?」

「絶好調だよ。完璧なKOを見せるから、目を離さずに見ていてほしい」

と、自信満々だった。

選手控室に顔を出し、チャイノイを激励する。顔色もよく、ウォーミングアップのシャドーボクシングも切れがあって調子の良さをうかがわせた。

 

第1試合、いきなりチャイノイの出番だ。入場時にも、うっすらと笑みをたたえ、ずいぶんリラックスしているようだ。

試合はわずか1ラウンドで終了。初回から猛ラッシュをかけたチャイノイが、見事な上下の打ち分けで対戦者を圧倒、あっという間にノックアウトして、今年4月に獲得したWBCユース・スーパーバンタム級タイトルの初防衛に成功した。

ロビーに出ると、控室に向かうチャイノイとばったり出くわした。

「ずいぶん早い勝負だったね」と聞くと、

「僕はいつでもエンジン全開です。みんなが僕に期待してくれていることはよくわかっています。これからも倒し続けて、必ず世界まで駆け上がってみせます」

と、清々しい顔で笑っていた。昇り龍の若者の勢いは見ていて頼もしい。チャイノイの明るい未来に期待したい。

 

7月21日、今日は帰国だ。今回の滞在は本当に忙しかった。帰国後も仕事が山積みになっている。ボクシングにかまけて、会社の仕事がおろそかにならないように、気を引き締めて取り掛かろう。力ずくで仕事をせず、もっと頭を使い、環境を整備し、効率のいい仕事ぶりを目指したい。若いうちはいいが、歳をとってくると、全力仕事では身が持たないし、ワンマンに陥りがちだ。下の人間も育てていくには、独りよがりの自己満足にならず、何でも共有し、共同作業で賢くこなすべきだと思う。まだまだ課題は山積みだが、ひとつひとつ根気よくこなしていこう。

夕方までのんびりし、チェックアウトをしてタクシーを手配。ラムルッカにある、チャッチャイのサーサクンジムへ向かう。

チャッチャイと先日の試合の反省会をしていると、トーンがやってきた。

「おつかれさん。いい試合だったね。ゆっくり休んでまたがんばろう」と激励すると、

「ありがとうございます。みんなあの善戦を褒めてくれたけど、ぼくはやっぱり勝ちたかった。当日は悔しくて眠れなかった。だけど、まだまだ若い連中には負けていない、と自信がついたのも確かです。今度コンビネーション・パンチをみっちりと教えてほしいです」

元気そうで良かった。コーラで乾杯し、再会を約束してジムを後にした。

 

タクシーを拾い、ビーさんのTジムへ向かう。

いつもより早く着いたため、ジムにはちびっこ練習生やダイエットの会員さんがまだ残っていた。

みんなに紹介され、ワンポイント・レッスンをした後、写真撮影。私の構えるミットに真剣な眼差しでパンチを撃ってくる子どもたちが可愛かった。私もかつてはこんな目をしてボクシングに打ち込んでいたのだろう。この中から将来のチャンピオンが誕生してくれることを願う。

練習が終わり、ビーさんと、歯科医師をしているという練習生のキャット嬢と食事に出かける。

ビールで乾杯し、タイ料理を楽しんでいると、

「実はケンさんに相談があります。チャッチャイとケンさんの奮闘を見ていて、最近刺激を受けている自分がいることに気がつきました。今は、フィットネスやダイエット中心の指導をしていますが、ここにきて、私もプロの選手を作ってみたくなりました。選手をスカウトするコネもできましたし、私の自宅には部屋がたくさんありますから、合宿環境も整っています。私のジムにもマネージメントやスポンサー協力を検討してくれませんか?」

思いがけない申し出だったが、この1年ほどビーさんと付き合ってきて、彼が実に誠実な人間だということはわかっていた。

「前向きに検討したいが、まだビーさんのボクシングスタイルやプロの選手を確実に強くする指導力があるかどうかを知っているわけではない。今後も毎月タイに来ますから、いろんな話をしていきましょう。どうせ手を組んでやるなら、いい仕事をして結果を出しましょう」

ビーさんの運転でドンムアン空港まで送ってもらった。

深夜0:00、離陸したばかりの機内の窓から見えるバンコクの夜景は本当に美しい。真っ赤に燃え上がっているようだ。その夜景を見ているといつも、哀愁と奮起が入り混じった複雑な気持ちになる。

またひとつ、しょい込む事になりそうだ。まぁ、今考えても仕方ない。帰ってからゆっくり整理して考えよう。

目を閉じるとあっという間に眠りについた。