拳を固めてサワディカップ15-3

9月14日、9時起床。近所を散歩して、昨日見つけたムエタイジムをのぞきに行く。

昨日、リングで昼寝していた選手たちが、熱心に汗を流していた。その様子を遠くから眺めていると、トレーナーから手招きされジム内へ。日本のボクシング関係者だと自己紹介すると、アイスティーが出てきた。

「日本のボクシングは非常にテクニカルだと聞いている。どうかうちの選手たちに、コンビネーションやディフェンスの小技を教えてやってくれないか」

そう頼まれて、5人ほどの選手に2ラウンドずつミットを持って指導した。みんなパンチが強く、パンチを受けるこちらも気合が入る。1時間足らずの指導だったが、すっかり汗だく。早くプールに飛び込みたい。

ホテルに戻り、屋上プールへ。午前中は水も冷たく気持ちがいい。ずっと泳いでいたかったが、30分ほどで切り上げて、ホテル前の屋台に入り、50B(150円)のトムヤム・ガイ(鶏肉の辛スープ)で朝食。香辛料がしっかり効いたスープはプールで冷えた体に心地よかった。

12:00、ホテルをチェックアウト、GRABアプリでタクシーを予約すると10分ほどで到着。本当に便利なアプリだ。愛想のいい運転手に行き先を告げ、ドンムアン空港へ出発。

13:30、母親と妻を入国ゲートで出迎える。イミグレーションもガラガラであっさりと入国できたそうだ。待たせておいたタクシーに乗り込みプロンポンへ。昨日下見したサービスアパートの一階のカフェで一休みする。管理人室でカードキーを受け取りチェックイン。

部屋に入って驚いた。広々としたリビングにベッドルームが二つ。プールやジムも完備。3人で泊まっても1泊2000B(6000円)。スイートルームにシングル料金で泊まるようなものだ。民泊が流行っているのが分かる気がした。

快適な部屋でゴロゴロとくつろいでいるともう夕方。
スクンビット通りまで歩き、タクシーを停めてプラカノン・ソイ43にあるヨッドさんのレバ刺し屋へ向かう。タクシーに乗り込んだ瞬間、タイ名物、スコールが盛大に降り出した。激しい雨足で前が全く見えず、みんなノロノロ運転。ソイ(路地)に入った時には、冠水した道路に車が浮き上がり、船の操縦のようにふわふわと漂っていた。

歩くよりも遅いスピードで何とか店に到着。着いた時には運転手も我々ももうへとへとだった。

ビールで乾杯してレバ刺しや海鮮の刺身に舌鼓。どれも本当においしかった。蒸し暑く、一見不衛生に見えなくもないタイの屋台での生ものに、母親は最初不安そうだったが、いざ口にしてみると箸は止まらず、満足していたようだった。

ナナプラザで二次会。バンイエンやいつものスタッフたちに母親を紹介して、テーブル席に陣取ると、みんな仕事を放ったらかして、我々のテーブルにやってきた。みんなで何度も乾杯して、くだらない話を繰り返し、楽しい夜が更けていった。

9月15日、9時起床。アパート近くの屋台へ入り、一杯30B(90円)のクイッティアオ(タイ風ラーメン)の朝食。

プロンポン駅からBTS(高架鉄道)に乗り、ナショナルスタジアム駅へ。MBKに買い物に行く。母親と妻が石鹸を買いに行っている間に、4階のROLEXへ時計のバンドの修理に行く。

チャイニーズレストランで飲茶の昼食をとった後、ホテルに戻り一休み。

MRT(地下鉄)に乗り、ワット・アルンへ向かう。下調べをしていたおかげでスムーズに着いた。

初めて見るワット・アルンは圧巻だった。ガイドブックで絶賛されているのもうなずける。広大な敷地にいくつもの寺院や仏像があり、ごった返す観光客でにぎわっていた。涅槃像に何度も何度も手を合わせ、この国でのボクシング活動の成功とタイの友人たちの健康を祈った。

タクシーを停め、チャトゥチャック市場へ。今日のお目当てはタイシルク。テーブルクロスやワンピースを母親にプレゼントした。初めて手に取ったタイシルクは造りもしっかりしていて、将来参入しようと考えているネットショッピングの主力商品にいいかもしれないと思った。布製品なので、かさばることもないから、大量仕入れも可能だし、送料の心配がないのもいい。これからしっかり勉強してうまくいくように頑張ろう。

ホテルに戻り、単独行動でサーサクンジムへ。

コーラとヤン君に5ラウンドずつミットを持って指導した。コーラのデビュー戦まであと2か月。相変わらず覚えは悪いが、少しづつ調子は上向きかけてきている。練習後、試合での心構えや、コンディションの作り方などを座学でみっちり教え込む。

「重量級なんだから、お互いに破壊力を持った者同士の試合になる。一瞬のミスが命取りになる階級なんだから、集中力を切らさないトレーニングを心がけておきなさい」とアドバイス。

練習終了後、チャッチャイと作戦会議をしていると、

「お母さんが来ているんだろう?久しぶりに会いたいから、明日にでもジムに連れてきてほしい」

お世辞でもうれしかった。

ホテルに戻り、MRTタイ文化センター駅裏にある、タラート・ロッ・ファイ(鉄道市場)へ向かう。ここはタイのガイドブックでも有名な市場で、約10万㎡の敷地に約1300軒の店舗、屋台が並ぶ。隣接するデパート、エスプラネード・ショッピングセンターの立体駐車場の4階から見下ろすと、色とりどりの屋台の屋根がとてもきれいに映えている名物夜景スポットだ。

これには母親も大喜びで、写真を撮りまくりご満悦だった。

オームから電話。夕飯に誘うのを忘れていた。一昨日と同じ、ポーチャナ・レストランを急遽予約して、タクシーで向かう。

蒸し蟹、焼きガニ、プーパッポンカリーでテーブルが覆いつくされた。大勢で食べる食事はやっぱり楽しい。母親と妻を紹介すると、支配人のチャイさんがワインをプレゼントしてくれた。

オームも日本でのダンサー時代に覚えた片言の日本語で、母親に一生懸命話しかけてくれていた。

タイの人たちは親や家族をとりわけ大切にする。マザコン・ファザコンをむしろ誇らしく思っているくらいだ。仕事をする際にも、家族を大事にしている人間は信用できると思っていると聞いたことがある。

飲みすぎたせいで、箸が進まず、大量の料理が余ってしまった。

「こんなごちそう、普段あまり食べられないから、テイクアウトで持って帰ってもいいですか?父と母にも食べさせてあげたいんです」

オームの親想いなお願いは、聞いてるこちらの気持ちも温かくなる。帰り際、オームたちがタクシーへ乗り込む時、チャイさんが、

「これは私からのプレゼントだ。持って帰って、家族みんなで乾杯しなさい」
と、ワインを一本、姉妹に持たせていた。