拳を固めてサワディカップ16-1

2019年10月31日7:40,SL315便で福岡国際空港からバンコク・ドンムアン空港へ向かう。

仕事の都合上、月末の渡航は避けたかったが、教え子の結婚式などが重なり、このタイミングでしか訪タイするのは難しかった。仕事も立て込んでおり、今月はほとんど記憶が飛んでしまうほど忙しかった。まだまだ仕事の段取りが悪い。もっともっと繁盛させるために、スケジュール管理や、右腕の育成に力を入れたい。

13:30バンコク到着。今日も暑くなりそうだ。喫煙所で一服した後、タクシーを停め、インタマラ45のLAタワーホテルへ。

1年前に予約をした時には、旅行サイトの手違いで泊まれなかったが、今回はスムーズにチェックインできた。さっさと荷物を置き、お楽しみのプールへ向かったが、なんと改装工事中。今回はプールはお預けのようだ。ショック。

気を取り直して、練習着を用意して、ラムルッカのチャッチャイのサーサクンジムへ向かう。少し早く着いたので、ジムの隣にあるラッサワイ市場をうろつくことにした。たくさんの屋台から、おいしそうな海鮮焼きのにおいがする。郊外の市場のため、エビやカニ、貝類などの生鮮品が驚くほど安い。ここで食材を買い込んで、ジムのみんなとバーベキューなんかいいかもしれない。

今回の訪タイの前に、チャッチャイから連絡があり、
「バンコクに着いたら、すぐにジムへ来てほしい、会わせたい人がいる。びっくりすると思うけど、まぁ、楽しみにしていてほしい」

そう言われていた。

ジムに入り、チャッチャイと再会の握手。ニヤニヤしているチャッチャイの隣に、元WBC・IBFライトフライ級チャンピオン、サマン・ソーチャトロンがいた。いつか会いたいとチャッチャイに話していたのを覚えていて、この日のために呼んでくれていたのだという。

「初めまして、お会いできて光栄です」
そう挨拶すると、

「ケンさん、初めまして。いつもあなたのFACEBOOKを見ているし、チャッチャイからも噂は聞いていました。熱心な指導者だと聞いています。今日は会えてうれしいです」

握手をすると、稀代の強打者の手とは思えないほど、少女の様に小さくて柔らかな手だった。

1995年7月15日、アメリカ・カルフォルニア州イングルウッドで、当時のミリオンダラー・チャンプ、ウンベルト”チキータ”ゴンザレス(メキシコ)に番狂わせの7ラウンドKO勝ちでタイトルを獲得。一躍シンデレラボーイとなったサマンは10度の防衛を重ねたタイのスーパースター。引退後は家族でカオマンガイ屋を開き、地元では知らぬ人がいないほどの大繁盛店に育て上げた。

練習着に着替えて、コーラとヤン君の指導に入る。ミットを持ってコンビネーションを教えていても、リングサイドのサマンの目が気になって仕方がない。憧れのチャンピオンの前でタイの選手を教えていることがなんだか照れ臭かった。

この日のコーラは、サマンが来ているせいか、気合が入っていて調子が良かった。コンパクトなコンビネーションパンチをスムーズに打てるようになってきた。この調子が続いてくれるといいのだが。

ヤン君の成長が目覚ましい。これまで教えてきたことをひとつ残らずマスターしていた。相変わらず体が硬く、不器用な感じはあったが、それを上回る向上心と熱心さでみるみる腕を上げている。

練習が終わり、チャッチャイ、サマンとお茶を飲みながら談笑。

「動画で見るより、実物の指導のほうがいいですね。日本の指導は技術的に優れていると聞いていたけれど、今日目の当たりにして改めてそう思いました。ただし、テクニックに走りすぎてパワーに欠ける。欠点を直すのは素晴らしいけれど、長所を伸ばす指導も取り入れると、もっと完成度が上がるでしょう。この調子でいい選手を作っていってください。これからもチャッチャイのことをよろしくお願いします」

値千金のアドバイスをいただいた。

ありがとうサマン。

ホテルに戻ると、FACEBOOKの友人、リンから電話。バンコクに来ているんでしょう、どこに泊まっているの?と聞かれ、インタマラのLAタワーホテルだと言うと、偶然にもLAタワーの目の前のホテルに滞在しているのだという。あまりの偶然に二人で大笑い。こんな広いバンコクでそんな偶然があるのか。夕飯の約束をして電話を切った。

19:00、ホテルロビーでリンと待ち合わせ。この日が初対面のリンは中国系のタイ人で、タイ語に加えて流暢な英語を話す化粧コスメ会社の女社長だった。

フワイクワン市場の2階にあるオープンレストランで夕食。改めて自己紹介をする。

ワインが2本空いたところで、リンが会社経営の苦労話を延々と語りだした。インドネシアやシンガポールに工場を持っているが、他国の税金はとても高い。商売は順調だが、年に一回の事業税が本当にしんどい。ケンのボクシング活動を今後応援させてもらうから、200万円強の税金を払うのを手伝ってくれないか、と、初対面の私にとんでもない申し出。

どういう神経をしているんだろうとびっくりしたが、面白そうなので、適当に聞き流していると、真剣に聞いているのと怒り出し、貸し付けの3倍の現金化できる担保と工場の権利書を用意するなら考えてもいいよ、と言うと、最後はとうとう泣き出してしまった。

泣いたり怒ったり、忙しい人だ。おかしな話を持ち掛けるのなら、もう少し緻密な絵を描いたほうがいいよ、とアドバイスして別れた。

明日も忙しくなりそうだ。