拳を固めてサワディカップ16-2

11月1日、9:00起床。プールで1時間泳いだ後、1階のレストラン、What’s up dogへ朝食をとりに行く。

レオビールとソムタム(パパイヤサラダ)を注文すると、オーナーのティナがチキンステーキをごちそうしてくれた。

部屋で一休みした後、スティサン駅から地下鉄に乗り、ラマ9世駅前のデパート、セントラルラマ9にある両替所、スーパーリッチへ。ここは一番換金レートがいい。軍資金もできたところで、デパート内のタイマッサージ屋で全身リラックス。旅の疲れもすっかり回復した。

ホテルに戻り、練習着とリングシューズを用意。タクシーを手配して、ラムルッカのサーサクンジムへ向かう。

ジムに着いたとたん、タイ名物、スコールが盛大に降り出した。ガレージづくりのジムの屋根に激しく雨が打ち付ける。地鳴りのような轟音に、会話も聞き取れないほどだ。コーラがまだ来ていなかったので、チャッチャイやトーンらとジュースを飲み雑談。

コーラのデビュー戦が11月30日に決定した。往年の名王者、カオサイ・ギャラクシーを擁するギャラクシージムがプロモートする興行らしい。相手もデビュー戦だが、16歳の若さにしてムエタイで300戦以上のキャリアがあるという。ずいぶん無謀な試合を組んだものだと思ったが、決まったものは仕方がない。あと一か月、できる限りの指導をして、何とか勝ちにつなげたい。

16:00、コーラがやってきた。試合が決まったことを伝えると、引き締まった表情になった。

1時間半、みっちりとコンビネーションやディフェンス技術の指導。300戦ものキャリアがある相手なら、駆け引きの妙や、相手の隙やミスを見逃さないテクニックが必ずあるはずだ。まともにボクシングをしたのでは、勝ち目は薄いと思う。勢いで押しまくるのか、体格やリーチを活かした慎重な戦い方をするのか迷うところだが、コーラの仕上がりを見ながら、雑にならないよう大事に仕上げたい。

11月2日、朝食が済んだところで、チャッチャイから電話。

「今日スティサンのバザールホテルでギャラクシーの興行があるから、一緒に見に行こう」とのこと。

待ち合わせの14:00までまだ時間があったから、What’s up dogでビールを飲んでいると、リンがやってきた。

「ボクシングを見に行くの?私も今日は暇だから一緒に行きましょう」

今日は機嫌がよさそうだ。

初めて見に行くギャラクシープロモーションのイベント。やはりテレビ中継も入っており、会場もなかなかの盛り上がりだった。うちのジムからはこの日は出場していなかったが、賞金トーナメントだけあって、どのボクサーも一ラウンドから倒しに行くボクシングに終始、見ごたえのある試合ばかりで、ここで今月末、うちのコーラが戦うのかと思うと身が引き締まる思いだ。

途中、トイレに行こうとロビーを歩いていると、テレビ解説に来ていた元WBC(世界ボクシング評議会)スーパーバンタム級チャンピオン、サーマート・パヤカルーンとばったり出くわした。再会の握手をすると、隣にいた元WBA(世界ボクシング協会)スーパーフライ級チャンピオン、カオサイ・ギャラクシーを紹介してくれた。

「チャッチャイと組んでいるらしいね。あいつはかわいい後輩だから、ひとつよろしく頼むよ」

いかつい顔でそう話すカオサイの瞳はにっこりとして優しげだった。

迫力のある試合を満喫した後、帰ろうとすると、元ボクサーのカメラマン、大部さんから声をかけられた。

「ホテルはどちらですか?お時間があるなら食事でもどうですか」とお誘いをいただく。

18:00に私のホテルのレストランで会う約束をしてバザールホテルを後にした。

ホテルに戻り、プールでひと泳ぎ。リクライニングでくつろぎながら、コーラをどう戦わせようか、あれやこれやと考え込んでしまった。リングも小さめだったから、足を使うのは得策ではない。カウンター狙いで行くか、接近戦に活路を見出すか。結局答えは出ないまま、夕食に出かけることになった。

18:00。大部さんとチャン・ビールで乾杯。現役時代はフェザー級(57.1kg)だったという大部さんも、今では立派なヘビー級。ビールをぐいぐいあおりながら、とりとめのない話をしていると、リンがやってきて、我々のテーブルに座ってきた。

写真好きのリンは、大部さんがプロカメラマンだとわかると、何十枚ものモデルポーズの写真を撮らせてご満悦。

ボクシングの撮影は被写体をとらえるのが本当に難しいと聞く。

「高山さん、シャドーボクシングをお願いします。撮影しますよ」

飲んだ勢いで数十発のパンチをふるい、写真を撮っていただいた。

スマホに送っていただいた写真データを見て驚いた。

どのパンチもぶれることなくきれいに撮られている。

プロの仕事は本当に素晴らしい。