ベストパンチ4
1978年1月21日 米国 ネバダ州
統一世界ライト級タイトルマッチ
WBA王者 ロベルト・デュラン(パナマ)TKO12R WBC王者 エステバン・デ・ヘスス(プエルトリコ)
両者は過去に2度対戦しており、初回はヘススがまだ荒削りだったデュランを翻弄し、32戦目での初黒星をなすりつけた。2戦目はダウン応酬の激闘の末、デュランが11ラウンドKOで雪辱を果たす。1勝1敗で迎えた3戦目。ライト級最強の称号を賭けた決着戦として三度び相まみえることとなった。
デュランは技巧派、ケン・ブキャナン(英国)から王座を奪うと磐石の強さでここまでWBA王座を11度の防衛(うち10KO)に成功。対するヘススも日本のガッツ石松から完璧な技巧でタイトルを奪ってから抜群の安定感で3度防衛。ここまでデュランは62勝(49KO)1敗。一方のヘススは52勝(30KO)3敗。勝敗の行方は全く読めなかった。
1ラウンドから両者はエンジン全開で主導権の掌握にかかる。しかし手の内を知り尽くした者同士は思うようにリングを支配できない。猛牛のような突進を見せるデュランに対し、ヘススは心憎いほどの技巧を駆使してカウンターを決めまくる。マッチメイクの駆け引きなど一切ない全盛期同士の名勝負は、徐々に消耗戦へと突入していく。
接近戦でデュラン、ややロングレンジでヘススが有利と見られていた試合が5ラウンドから動き出す。ヘススが根負けしたのか、両者が接近している時間が長くなってきた。接近戦でのデュランは動物的な勘でヘススの鋭い迎撃打をかいくぐり、数え切れないほどの強打を繰り出すが、ヘススもその長い腕をコンパクトに畳んだシャープな左フックで離れ際を制し、やすやすとはペースを渡さない。
迎えた12ラウンド。ヘススがはっきりと勝負に出た。小さく右にサイドステップして、さらにデュランがそれに反応していないのを確認したヘススは満を持して鞭のようにしなりの効いた右ストレートを打ち抜いた。
そのヘススのアゴに炸裂したのは、今回のベストパンチ。ストレートでもない、アッパーでもない、本能で振り上げられた不思議な角度のデュランの右強打だった。訓練によるパンチではなく狙ったパンチでもない。天才デュランが動物の本能で瞬時にひらめいたパンチだった。
相手の右強打に対して頭を右に残したまま右をカウンターするなんていうシーンはこの一瞬以外にお目にかかったことはない。
驚愕の表情で倒れたヘススは辛くも立ち上がったが、ダメージは深刻で、直後滅多打ちにあいデュランの軍門に下ることとなった。
最強の、しかも因縁のライバルを退けたデュランは、ライト級(61.3kg)にもはや敵はいない、と王座を返上。スーパースター、シュガー・レイ・レナード(米国)のいるウェルター級(66.6kg)へと一気に2階級ステップアップ。”石の拳”伝説の第二章に飛び込んでいった。