拳を固めてサワディカップ16-3

11月3日、8:00に目が覚めたが、昨夜は少し飲みすぎたので、二度寝をして11:00起床。

1階のWhat’s up Dogで遅めの朝食。ニンニクがしっかり効いたTボーンステーキとチャン・ビールで300B(900円)。二日酔いの胃袋には少し重たかったが、抜群の美味しさでペロリと平らげてしまった。

プールサイドのリクライニングで日光浴がてら、今後のスケジュールを立て直す。

関ジムにプロ志望の若者が数人入ってきた。アマチュア経験のない者ばかりで、みっちり基礎から教え込んでいるところだ。昔の指導方法から脱却した、海外式のほめて伸ばす指導はうまくできているか自問自答する。

この新しい指導方法については、関会長やサマンとも話しあって納得はしているが、もう一つ胸の奥で引っかかるものがある。

幼少期からボクシングを始め、真剣に向上心を持って取り組んでいる選手や練習生には効果的だと思うが、方向性を見いだせていない選手や、怠け癖のある選手には、厳しい叱咤激励は必要なのではないか。

この指導方法では、キャリアのあるやる気のある選手はどこまでも伸びていくだろうが、やる気に乏しかったり、ムラのある選手はヒントを与えられず、出口が見えないまま、ズルズルと落ちこぼれていくのではないか。

自主性に任せることの恐ろしさがよぎる。エリートと底辺層の二極化となりはしないかと不安もある。

懐古趣味ではなく、怠ける選手を引っ張り上げる厳しさをゼロにしてしまっていいものか。
学校での勉強のように、その当時は嫌々やらされていたことを、時間がたって感謝することもある。チャンピオンにはなれなくても、ボクシングで頑張るということを覚えたおかげで、引退後の第二の人生を自信をもって歩いていけるようになってボクシングを卒業するのも一つのキャリアだと思う。逃げない人間を作り上げるということだ。

これはとても難しい問題で、極論を考えても仕方ないが、うまく中庸を目指して取り組んでいきたいと思う。

部屋に戻ってゴロゴロしていると、LINEのアラート音が20件ほど連続して鳴り続いた。

故障かなと思うくらい鳴り続けるので様子を見てみると、インドのマッチメイカーからの依頼だった。

これからインドはプロのボクシングにより一層力を入れていくそうで、海外での試合を望んでいるという。

選手を20名ほど紹介するから、この選手たち全員の海外でのキャリアづくりを依頼したいとのことだった。

21人のインド人ボクサーの選手のプロフィールを見ながら、公式記録との裏付けをとる。

インドのボクシングコミッションは複数存在しているらしく、選手の戦績も、もう一つ信頼度に欠ける。海外で試合するとなれば、VISA取得や各国コミッションの招聘状の発行など、しっかりとした連携が必要になる。現状を把握するために、近いうちにインドに勉強しに行くことになりそうだ。

15:00、ホテルをチェックアウトして、タクシーでサーサクンジムへ向かう。

日曜日だというのに、ヤン君は毎日熱心に練習に来ている。

連日の丹念なストレッチのおかげで。彼の体もだいぶ柔らかくなった。スピードやキレもだいぶ出てきて、こちらが構えるミットに期待通りのコンビネーションを打てるようになってきた。

「少し自信がついたから、軽めで結構ですので、僕のスパーリングの相手をしてもらえませんか?」

私との体格差はかなりあるが、彼の真剣なまなざしを見てOKした。

1ラウンド目、早い出入りで間断なくジャブを打つ。単発のジャブはしっかり反応してパーリングしていたが、ダブル・トリプルと打つと、もう反応できない。彼の右目下が腫れるくらい打ち続けた。

ラウンド間のインターバルの間、ヤン君はグローブを外し、コーナー脇のノートを手に取り、何やらメモを取り始めた。

2ラウンド目、ロープに下がって攻めさせる。うち終わりの隙にカウンターを合わせることに終始した。ヤン君の鼻から鼻血が噴き出した。

ラウンドが終わるとまたメモを取っている。

3ラウンド目、フェイントをかけて、サイドからのボディブローを打ちまくった。2度倒れたが、最後までギブアップせずにやり遂げた。

「何をメモしていたの?」

「僕は頭がよくないから、失敗したときやうまくいかないときには時間を置かずにすぐにメモを取るようにしているんです。頭で知っていることと、実際に行動できることは別物ですから。これは中国の教えなんです」

照れ臭そうに笑っている。

何が頭が悪いものか。「無知の知」をわかっているこういう若者には、素晴らしい未来が待っていることだろう。