拳を固めてサワディカップ17-1

2019年11月28日9:25、福岡国際空港からタイ・ライオンエアSL315便に乗り込み、バンコク・ドンムアン空港へ向かう。
相変わらず客席はガラガラで、3列シートに横になってぐっすり眠っているうちにバンコクへ到着。

タクシー乗り場でまずは一服。ここ最近で一番の暑さだ。立っているだけですぐに汗が噴き出してくる。気温を見ると36℃。今回はつらい滞在になりそうだ。スケジュールや移動をスムーズに段取りしよう。

インタマラのLAタワーホテルに到着。チェックインにはまだ時間が早いので、1階のWHAT’S UP DOGでレオ・ビールとソムタムを注文して一休み。

「また来たの?もうこっちに住んじゃえばいいのに。飛行機代がもったいないでしょう」

オーナーのティナが笑いながらサービスでフライドポテトを出してくれた。

15:00ジャスト、ホテルにチェックイン。荷物を置くとすぐにプールへ。前回は改装中で泳げなかったが、今は工事も終了。前回のうっ憤を晴らすように1時間みっちり泳ぎこんだ。

16:30、タクシーを手配してサーサクンジムへ。翌日に試合を控えているペット、ヨードモンコン、ペッマニーは前日計量の為、この日は留守だった。明後日デビュー戦に出場するコーラは減量苦の為、今日はジムを休んでサウナで汗を絞り出すという。

がらんとしたジムでグローブやミットなどの備品を磨いていると、ヤン君がやってきた。

ミットを6ラウンド受け、新しいコンビネーション・パンチをみっちりと教え込んだ。

 

練習が終わり、サイダーを飲みながら談笑していると、

「どうして僕には試合の話が来ないんですか」

そう尋ねてくるヤン君。

「熱心に練習に取り組んでるのはよくわかっているよ。しかし、君のボクシングはまだ頭で考えすぎている。ボクシングは頭と体の両方で考えないといけない。もっと時間をかけて、君の体にボクシングを染みこまさないと試合はさせられない。心配ない。君は間違いなく成長しているよ。もう少し辛抱して、ベストの状態で試合に臨もう」

そう説明すると、

「わかりました。まだ危ないということですね。もっと練習して強くなります。これからも指導をお願いします」

こちらの目をしっかりと見据え、そう答えたヤン君は深々とお辞儀をすると、時間を惜しむかのようにサンドバッグへと走っていき、教わったばかりのコンビネーション・パンチを猛然と打ち始めた。

実際、彼の試合を組むことは簡単なことだ。この実直な中国人ボクサーには充分にその資格はあると思う。ただ、現時点での彼の体の硬さ、朴訥すぎる人柄では、リスクが高すぎる。もっとずるがしこく、もっと器用にさせてからでないと、あの目まぐるしいリング上の戦いについていけないだろう。彼にはもうすっかり情がわいてしまっている。もう少し辛抱して、充分に鍛え上げてから舞台を用意してあげたいと思う。

彼がリングで勇敢に戦う姿を早く見たい。

ホテルに戻り、プールサイドでくつろいでいると、友人のノックから電話。夕食のお誘いだった。20:00にWHAT’S UP DOGで待ち合わせることにした。

メイクアップの資格試験に受かったというノックは今日もご機嫌でビールを次から次へとあおり始める。同じ話を何度もしながら、相変わらず楽しそうだ。女手一つで育て上げた息子が大学を卒業して就職が決まったという。

彼女はこれまでどれほどつらい思いをしてきたのだろう。息子が育ってきた過程を楽しそうに話しながらも時折、目を伏せてかすかに舌打ちをする。思い出したくもない時期の忘れてしまいたい過去を思い出してしまったのだろう。

「よくがんばったね」そうねぎらうと、

「どうってことなかったわよ。いい?母親は強いのよ。ボクサーなんかよりね」

いたずらっぽく笑うノックの顔ははっとするほど魅力的だった。

いつものようにベロベロに酔っぱらったノックをタクシーに押し込み、部屋へ戻る。

最近さぼりがちだったタイ語の勉強をしようとするが、全く頭に入ってこない。考えるのは明後日のコーラの試合のことばかり。

試合の二日前にサウナに飛び込むような調整で大丈夫だろうか。日本ではこんな調整方法は考えられない。1週間ほど前から、一日に何度も体重計に乗り、100g単位の増減で一喜一憂する日本の調整方法が神経質すぎるのか。

まあ、ここはタイだ。その地ならではのやり方があるのだろう。

あまりネガティブなことばかり考えていても仕方がない。
マイペンライの気持ちで前を向いて頑張ろう。